レスラー

 もしかしたら終わっているかもしれない。いや、きっと終わっているだろう。そもそもこの映画、全国的には6月に公開されていたわけで・・・・遅れながらもようやくココ鹿児島に入ってきたのだが、劇場からの情報によると公開期間は「2週間程度」とのこと。ギリギリ公開中か?もしくは公開終了後のタイミングだと思う。にも関わらず、それだけのリスクを背負ってでもどうしても取り上げたかったのだ。願わくば「評判が良くて上映期間延長」ということにでもならないかと思っている。個人的に言って、近年これほど心を掴まれた、というか魂を揺さぶられた映画は久しく観ていなかった。この表現も「ごく控えめに言って」だ。
 コレは、全盛期をとっくに過ぎた孤独なレスラーの物語である。と、書いた時点で女性やカップル客の足は遠のくのだろう。あるいは、その判断は正しいのかもしれない。しかし、男性諸君(特に30代以上)には必見である。いや、ホントにもしも僕が大金持ちであれば「30代以上の男性は無料」という企画をミッテさんと作って僕が皆さんを招待しても良いくらい。プロレスの全盛期というのがどの時代を指すのか僕には分からないが、“僕にとって”は紛れも無く80年代である。あの頃の世間の男の子が皆そうであったように僕もプロレスの大ファンだった。正にその時代にナンバー1レスラーだった男の物語。彼はストアーでバイトをしながら未だに週末は興業をしているのだが、ある日心臓発作を起こし医者から運動を止められてしまう。“レスラー”を取り上げられてしまった彼は初めて自分が何者でも無い過去の産物だと気付き、急いで人生を取り戻そうとする。妻とはとっくの昔に別れ、ずっと放ったらかしにしていた独り娘に自分の人生に対する後悔の念を打ち明け、涙ながらに謝る大男を劇場の席で平然とやり過ごせる男が居るだろうか?物語は、同じく“全盛期”を過ぎた子持ちのストリッパーの物語が“裏ストーリー”として並行して描かれる(この話がまた涙無しで観られないのだ)。80年代に少年時代を送ってきた僕は、プロレスの試合前に対戦相手と綿密な打ち合わせをするシーンに“事の真相”を暴露され、「音楽は80年代が最高だった!ガンズが居て、モトリー・クルーやデフ・レパードが居た。そこにニルヴァーナが出てきてパーティーをお開きにさせちまった!90年代(の音楽)はクズだ!」なんていうセリフをいつまでもいつまでも自問自答してしまうのだ。そして、そんな孤独な“過去の”レスラーを演じるのがミッキー・ローク!当時まだ小学生だった僕には『ナインハーフ』はまだ刺激的過ぎたにしても『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』のあのカッコ良さは後にも先にも映画史上唯一であった。それは世界に『エンゼル・ハート』すら大傑作だと思わせるほど。その後の彼は“プロボクサー”そして“猫パンチ”。ファンにとってこんな終わり方なんてあるだろうか?近年『シン・シティ』などで「復活!」とか言われていたけど、そもそも彼がそんなチョイ役なわけがない。コレぞ僕らが観たかった圧倒的主役級なミッキー・ロークである。
 当初、ニコラス・ケイジで進められていたこの企画を、スタジオとモメて予算を3分の1にまで削られながらもミッキー・ロークで推していったダーレン・アロノフスキー監督。こういった“裏話”だけでも1本の映画になりそうな濃いエピソードを持って生まれた『レスラー』は、ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞したとか、そんな些細な情報を遥かに超越した大傑作なのである。もしもまだ公開中であれば絶対に観て損は無い1本。終わっていれば・・・・仕方ない。DVDで。

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