サイドウェイズ

 仲の良い友人らはみんな呆れるくらいに知っているのだけど、僕は「これぞ自他共に認める」というくらい大のビール好きである。休日の、まだ夕方とも言えない早い時間に掛かってくる友人からの電話はまず「もう飲んでた?」と始まるくらい。勿論僕だって「まだこんなに明るいのに飲んでるか!」と怒ってみたいのだけど、事実飲んでいるのだから何も言えない。それどころか、早くから飲んでいる時ってのは、妙に後ろめたい気持ちになるものだ。
 『風の歌を聴け』、『1973年のピンボール』、『羊をめぐる冒険』の初期3部作と、その続編である『ダンス・ダンス・ダンス』は村上春樹の中でも特に好きな本で、その理由は「読む度に無性に酒が欲しくなる」から。それも、本を手に取るだけで条件反射的に飲みたくなるほど。鹿児島中央駅西口から歩いて10分くらいだろうか?筋を入った所にある〈レシフェ〉という小さなカフェ・バー、そこが僕にとっての“ジェイズ・バー”であり、特別な場所だ。オーナーのリチャード(英国人)と村上春樹の話をしたことは無いし、物語の中の“主人公”と“ジェイ”ほど歳も離れていないのだけど(と言うか、リチャードと僕とは同世代)。酒には人それぞれの楽しみ方があると思うが、僕は個人的にココ〈レシフェ〉で飲むワイン、もしくは休日の夕方に庭でブエナビスタやらQuantic(コレもリチャードから教えて貰った)を聴きながら飲むビールが1番好きだ。だから「当然」とも言える流れでアレクサンダー・ペインの『サイドウェイ』は大好きな大好きな映画なのである。数年前にココ(Go to Theaters)でも取り上げたくらい。とにかくダメな男が全編に渡り飲み続け、更にもっとダメになる・・・そんな大人の物語。“酒”と“誘惑(異性)”にまつわる“ダメな大人の”物語。「酒の勢いであんなこと言うなんて!」とか「私は相手が独身者じゃないと騙された気がするの!」なんていう若者には到底理解されるはずもない“大人”の物語なのである。付け加えるならそれは“ダメな大人”の、ではあるのだけど。
 ジャック・ニコルソン主演で、過去に付き合った女性に会って周るという身も蓋も無い情けない男を描いた究極の“大人な映画”、『アバウト・シュミット』を撮ったアレクサンダー・ペインと、(ハゲ頭)ポール・ジアマッティの存在が生み出した奇跡的とも言えるこの名作が、小日向文世、生瀬勝久、それに鈴木京香と菊地凛子というキャストで、より親しみやすく生まれ変わった。ずっと青春時代を送り続ける“おっさん”はなんてカッコ良いのだろう。コレぞ大人の為の青春映画である。アイルランドとスコットランドの蒸溜所を見学して廻り、“シングル・モルト”と“アイリッシュ・ウィスキー”と“黒ビール”を飲み続ける旅を綴った村上春樹の『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』という本と同様、この『サイドウェイズ』も、ただただ飲み続ける中に“人生”すら見出してしまう、とても素敵な物語だ。

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