カールじいさんの空飛ぶ家

 当時から「世界一のコンピュータ」と言われていた“アップルⅡ”に、ゼロックスが開発した“マウス”を組み合わせ完成させた“Mac”でその地位を不動のものにしたアップル社。たった4人で立ち上げた会社の創立者の1人であるスティーブ・ジョブズは、会社が巨大になっても社内をサンダル履きでウロウロし、社員を「能無しの給料泥棒」と呼ぶ。更には一緒に会社を立ち上げたパートナーすら信用せず、社内で“アップルⅡ派”と“Mac派”を意図的に対立させ面白がってみたり、自分の彼女が身ごもった子供を認知せず、億万長者になっているのにも関わらず、わずか数百万円の慰謝料も払おうとしない。“人間味”が無いことで有名なジョブズにはこういった数々のエピソードがある。そして彼は、役員会で会社を解雇されるわけだが・・・・。
 一方、話は変わって、今回のお薦め映画である『カールじいさんの空飛ぶ家』。『トイ・ストーリー1、2』、『モンスターズ・インク』、『ファインディング・ニモ』や『カーズ』といった大ヒットCGアニメを世に送り出してきたピクサーの最新作だ。ピクサー社は「世界で一番、社員思いの温かい会社」と言われている。作り出す映画の所有権を社員全員で分け、立場上の役職はあっても実質“横並び”の体制をとる。毎日全員でランチタイムを取り、全社員が受講できるヨガや彫刻、太極拳などのクラスを完備。社内にはゲームセンターが設置され、毎週金曜日の夜は社員の生バンド演奏を聞きながらの“ビール・ナイト”がある。更には社員の家族用に作られた高級ホテル並の宿泊ルームや、子供たちの遊べるキッズ・スペースまであるのだそうだ。さながらリゾートホテルのような佇まいを見せる会社の入り口には、世界中の子供たちから送られてきたキャラクターの似顔絵やファンレターが貼ってある。(ルーカス・フィルム社のCGアニメ部門を独立する形で86年に創立したピクサーは、97年にディズニーと提携するが、直後の99年に両社は『トイ・ストーリー2』をめぐり早くも衝突。そして06年にピクサーは買収され、ディズニーの完全子会社となる。が、ココでは敢えてそういったいざこざ話には触れないことにする)このピクサー社の会長は、何を隠そう“スティーブ・ジョブズ”その人なのである・・・・のは既に有名な話だろう。創立者の1人であるにも関わらず、自身の会社をクビになり、それからピクサー社を創立した後、業績不振に陥っていたアップル社に96年に復帰。そして彼は最大のライバルであるMicrosoft社との資本提携に踏み切り、iMacやiPod、iPhoneといった大ヒット製品を次々にリリース。アップル社を完全復活させているのである。基本給与として年1ドルしか受け取ってなく、「世界で1番給料の安いCEO」としても有名だ。僕ら凡人には想像も付かない人生を送っているスティーブ・ジョブズ。人間ってのは自分次第で本当に変われるものなのだな。とてつもなく深い経験をしたからこそ、あのとんでもなく温かいピクサー映画が生まれるのかもしれない。毎回、玩具やアリや車や魚にモンスターといった意外(?)なキャラが主人公であるピクサーにしては珍しく、今回の主役は人間である(お爺さんだけど・・・・)。世界中を旅して廻る冒険家を夢みるカールはもう78歳。夢を叶えるにはもう歳を取り過ぎた・・・・と思いつつも、永年連れ添った最愛の奥さんを亡くしたのをきっかけに、8歳の少年ラッセルと共に冒険の旅に出る、というお話。何がピクサー的かと言うと、その「旅の方法」。なんと、家にたくさんの風船を付けて家ごと飛んで行くのだ。なんて素敵な発想だろうか。しかも、実際に家を飛ばすにはどれくらいの風船が必要か?まで算出して、その数だけの風船を付けているらしい。結構どうでもいいような、実にピクサーらしいこだわり方だ。この素敵な物語が、今回は(意外にも)ピクサー初の試みである3Dで描かれる(因みに、現在ピクサーは過去の全ての作品を3Dに変換中で、順次3D作品として再公開されるそうだ)。
 4年前にガンと診断された10歳の少女。いよいよ余命わずかだという時「死ぬ前に『カールじいさんの空飛ぶ家』が観たい」という彼女の願いを叶えるべく、両親がダメ元でピクサーに直接頼んでみたらしい。するとピクサーは彼女の家まで上映セットを運び、プライベート上映会をしたそうだ。映画はまだ公開前だと言うのに。世の中、まだまだ捨てたもんじゃないな、と思った。老若男女問わず、全ての人に観て欲しい1本だ。

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