第9地区

 映画界で最も有名で最も巨大な映画祭である“アカデミー賞”。「こういう大きな賞みたいなのには興味無い」という映画ファンも多くいるだろうが、僕は個人的に結構毎年楽しみにしているイベントである。しかし、今回に関しては、スコセッシ&ディカプリオの『シャッター アイランド』が公開延期の為ノミネートからも外れ、更に、久々のタランティーノ最新作『イングロリアス・バスターズ』が、アレだった為(個人的には好きだったが・・・)、正直全然面白くないな、と思っていた。だって、他のノミネート作を見ても分かる通り1年通してコレと云った作品がなく・・・って言うか、もう『アバター』しかないじゃないか!と思っていたから。ジェームズ・キャメロン監督自身が持っていた『タイタニック』(97年)の記録を塗り替え、映画史上歴代1位となった映画の公開年なのだから、他の映画が賞を逃しても、コレは仕方無い。あとは『アバター』が幾つの賞を受賞するのか?賞の数も歴代1位の『タイタニック』が持つ11部門を塗り替えるのか?という話題しかないじゃないかと。正直、それじゃあつまらないなぁ・・・と思っていた矢先、キャメロン監督の元嫁であるキャスリン・ビグロー監督作『ハート・ロッカー』が、突如レースに参戦する形で次々とノミネートされてきたのである!元夫婦一騎打ち!という話題と共に、女性監督初の監督賞受賞なるか!?という歴史的快挙。更には、この映画の関係者が『アバター』ではなく『ハート・ロッカー』に投票して!とアカデミー会員にメールを送りまくったとかでペナルティを課せられたりもして、賞の行方を大いに混ぜくり面白い展開に。で、結果『ハート・ロッカー』の圧勝で、キャスリンも女性として初の監督賞を含む6部門を受賞し、元夫婦対決にも決着が着いたのだが・・・しかし、やはりどこか納得出来ないのも正直なとこ。「賞には興行成績は関係無い」とは言え、この『ハート・ロッカー』、アカデミー受賞作品の中では近年稀にみる程低い収入しか稼げていない。そんな映画が6冠を受賞し、歴代1位を更新した作品が3部門に留まるというのは「じゃあ、何の基準なんだ?」とも言いたくなる。考えようによっては、「キャメロンは既に『タイタニック』でアカデミー賞を獲ったし、『アバター』もこんだけ稼いだんだからもういいじゃん」と。だから「ココでまだ世界中で公開されていない『ハート・ロッカー』に獲らせたら、この映画も稼ぐんじゃない?」・・・・更には、キャメロン自身が「オレはもういい。充分稼いだし。それより、ほれ、元嫁に・・・・どうにかしてやれんかの?」と言い出した可能性だって無いだろうか?「いくら何でもそりぁ無いか~」と思いつつも、かつて『ロード・オブ・ザ・リング』が、前2作がコレといった賞を何も取らなかった代わりに最後の『王の帰還』で、『タイタニック』と『ベン・ハー』(59年)に並ぶ歴代タイ11部門を“まとめ獲り”する、という快挙を成し遂げた例を思いだし「あれだけ巨額の金が動き、そんだけ稼いだ人にまつわる話なのだから、まぁ、色々とあるかもね・・・・」と、自分には想像も及ばない何か巨大な力の存在を感じなくも無いのだ(因みに『ハート・ロッカー』は受賞納得の物凄い名作だった!)。そんな中、今回のアカデミー賞で実はもう1つ大きな話題となっていたのが、この『第9地区』である。全く無名の監督と俳優陣で作られた低予算“SF映画”が、なんと賞のメインとも云える「作品賞」、「脚色賞」、「編集賞」、「視覚効果賞」の4部門にノミネートされたのだから!
 ある日突然上空に現れた巨大な宇宙船。その正体不明の物体はそれきり動かず上空に停滞したまま。“それ”は人類にとって味方なのか?敵なのか?迎え入れるべきなのか?それとも攻撃すべきなのか?・・・・既に何十回と観たような使い古された設定だ。しかし、この映画は冒頭であっけなく意外な展開をみせるのである。なんと“それ”に乗っていたのは弱り果てた宇宙人の大群!巨大な宇宙船は、大勢の“難民”を乗せ故障した難民船だったのだ。「おぉ?」という斬新さ!更に舞台となるのは、南アフリカ共和国ヨハネスブルクの上空である。普通、こういった巨大宇宙船が現れるのは、アメリカのカントリーサイド的な田舎町か、もしくはロサンゼルスやニューヨークのような大都会ではないだろうか?・・・・(何を「普通、」とするかは分からないけど)。もう、この設定のみで勝ちだろう。これだけ使い古された“UFOネタ”で「まだそれがあったか!?」と笑いが出る程のアイディア勝ち。圧勝である。で、物語はそれから28年後。地球人の計らいで“第9地区”と呼ばれる隔離地域を提供され難民として暮らしている宇宙人たちは、当初弱っていた体力もすっかり回復し、何かと人間たちと対立するようになり、そして遂に・・・・。この映画はあまり先入観を持たずに観た方が、本来のウリである“斬新さ”と“インパクト”を楽しめると思うので敢えてコレ以上は書かないが、それでもきっと“SF映画”としての“ぶっ飛び度”は皆さんの想像以上だろう。観ている途中、「なるほど、要は政治問題を描いているのか」と気付き、だから舞台が南アフリカ・・・とも詮索してしまうのだが、それを圧倒的な独創性を備えたスタイリッシュな“ドキュメンタリー映画”として完成させているところがこの映画の最大のポイントである。
 ニール・ブロムカンプ監督のデビュー作となる本作は、当初10分程の短編だったものを『ロード・オブ・ザ・リング』三部作でその地位を不動のものとしたピーター・ジャクソンに見出され(やっぱり、大御所が絡んでいる・・・)、彼が資金集めまでして“長編モノ”として撮り直された、という経緯を持っていて、登場人物も全くの無名な人ばかり(だからこそ、ドキュメンタリータッチとしての効果が成立するのだが)。VFX映画としては低予算である(らしい)製作費3000万ドルは、公開初週のわずか1週間足らずで軽くそれ以上の興行収入を上げて大ヒットを記録しているのである。“低予算×超斬新なアイディア+無名俳優×ドキュメンタリー(タッチ)=特大ヒット(荒稼ぎ)!”というのは、99年の『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』辺りから1つの“ジャンル”とも云える程確立してきて、最近では『パラノーマル・アクティビティ』などが記憶に新しいのではないだろうか。映像は3Dの時代に入り、2D映像としては既に行き着くところにまで確立された近年。そもそも“映画”自体がネタ切れ、と言うかどこかで観たような同じような映画が次々と量産されている中で、こういうゲリラ的な斬新な映画がたま~に出てくることでまた映画界は活気付くのだろう。人間という生き物の底知れない発想力に驚かされる1本。久しぶりに純粋に“映画”という娯楽を楽しめた気分だった。

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