エルム街の悪夢

 「映画コラムなのに、全然映画と関係無いことばっか書いてんじゃん」と最近よく言われる。その度にいつも思うのだ「僕はいつだって映画のことを書いているのに」と。早速本題に入るとして、今回の紹介作『エルム街の悪夢』を書くにあたってまず「何故僕がこんなにもカレーとラーメンが大好きなのか?」ということを説明しなければいけない。何故だろう?とふと考えた時(って言うか、むしろコレらを嫌いだという人の方が少数派だと思うので、疑問に思うこと自体野暮なのかもしれないが・・・・)僕はそれを明確に「美味い水が飲めるから」だと断言出来る。「僕は昔から食事中にやたらと水をがぶ飲みするんだよね」と誰かに言ったことがないので、この告白が一体どれくらいの人の共感を獲得出来るのか全く分からないけど(因みに、血糖値は正常だ)重ねて言うならば、しかもそれは喉を潤すようにチョコチョコ飲むのではなく、出来るだけ我慢した挙句に氷の浮かぶ冷たいグラス一杯の水を一気に飲み干すのが好きなのだ。大好きなビールが飲めない状況下で、このグラス一杯の水を1番美味しく飲む為のツールが僕にとって“カレー”と“ラーメン”なのである。突き詰めれば、僕はカレーとラーメンが好きなのではなく、“美味い水”が好きなのかもしれない。その為にカレーやラーメンを食べているのかもしれない。このシチュエーションでの“美味い水”は、時にビールをも超えていると言っても過言ではない程だと思うから。
 特にこの時期の冷たい水は美味い!仕事柄外食の多い僕が、行く(行きたい)お店の基準はまず水がセルフであること。氷でカラカラ涼しい音のするポットが各テーブルにドンと置いてあれば最高だ。やたらと水を飲む僕はいちいち店員さんに「すみません、お冷下さい・・」と何度も何度も言いたくないのだ。何度も呼ばれる店員さんも嫌だろうが、こっちだって気を遣って嫌なのだから。とある店で、店員さんに水のお代りをお願いすると店内中に聞こえる大きな声で「○番にお冷のサービスお願いします!」と言い放つシステムのところがあった。言葉自体の意味は決して間違ってはいないのだろうけど、僕はその“サービス”という響きが「タダであげますよ」という何とも恩着せがましいものに聞こえて居た堪れず、もう2度と来ないと心に決めたのだった。しかもその日僕は何度も“タダで”水を飲ませて貰ったし、それを周りの大勢の人にいちいち知らされ「またかよ」という目で見られた(ような気がした)のだから。それをきっかけに2度と行っていないので未だこのシステムが行われているのかは分からないけど、食事は美味しかっただけにとても残念であった。
 『エルム街の悪夢』のフレドリック・クルーガーや『13日の金曜日』のジェイソンってのは、僕にとってこの“水”なのだと思うのだ。要は、このキャラ(水)が出てくるのを楽しみにしていて、それ以外は“序章”でしかないのだけど、かと言ってそれらを飛ばしていきなりフレディ(水)が出てきても、それは何者でもなくなってしまうような・・・・逆説も然りで、フレディ(水)がどんなに怖く(美味く)ても、それを引き立てる物語と脇役(カレーやラーメン)が弱ければそのインパクトは薄くなる。それは、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」の上巻に例えても良い。中巻と下巻をメッチャ面白く読む為に読まなければいけない“上巻”。それを飛ばしても読めなくはないのだけど、やっぱ“上巻”を「つまんねぇ~、読みたくねぇ~」と思いつつも我慢して頑張って読むことでそれ以降が圧倒的に面白くなる、というか・・・・(それとはちょっと違うか?)。
 『エルム街の悪夢』の最新作は、なんとオリジナルのリメイクである。ホラー映画の巨匠ウェス・クレイヴン(今では『スクリーム』の方が有名か?)の84年の名作であり、ジョニー・デップのデビュー作(今では殆どの人が知らないであろう)であるこのシリーズはこれまで6~7本ほどの続編がリリースされ、『フレディVSジェイソン』というコラボ作まで作られた超大ヒット映画なのだが、敢えて“最新話”ではなく“オリジナルのリメイク”としたのは大正解だと思う。だってもう“フレディ”はある意味確立された1つのキャラであり、それはもう怖い殺人鬼なんかではなくなっていたのだから。量産されるにつれどんどんポップアイコンとなってしまったフレディだが、元々は、「夢の中に鍵爪を持ったメッチャ怖い殺人鬼が出てきます。で、この話を聞いた人の夢にも同じく出てきます・・・・出てきました!?気を付けて下さい、夢の中で襲われたらホントに怪我するし、殺されますから・・・・」という、それはダメでしょ!という反則技的なリアル・ホラー映画の金字塔だったのだ。悪夢の中で、逃げる為に走っても走っても前に進まないあの感覚だとか、ベッドの中に体がズドン!と落ちていく感じだとかを初めてリアルに映像化したホラー映画として、当時の衝撃は相当なものであったのを覚えている。しかも、悪夢の中の殺人鬼に襲われたら本当に死んでしまうのだ・・・・コレは怖い。
 ヘタすれば今の若い女の子の一人暮らしの部屋に彼の人形が置いてあっても不思議ではない程に可愛くなってしまった“フレディ”を、本来のキャラに戻してしまうくらい、もっと言えばオリジナルを超越するくらいのキャラに仕立て上げた本作。巨匠マイケル・ベイが製作総指揮を務め、ニルヴァーナやグリーンデイなどのロックバンドのミュージック・クリップを撮ってきたサミュエル・ベイヤーの気合の入ったデビュー作というだけあって、“かつての名作ホラー映画”を“最新型ホラー映画”に見事に昇華・復活させている。
 きっとジョン・G・アヴィルドセンも、自身の名作『ベストキッド』を「どうせならこんなキャスト・スタッフでリメイクして欲しかった・・・・」と思っているに違いない。

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