ベストキッド

 Liveの帰り「軽く飯でも食って帰ろう」となり、メンバーとその嫁さん・友人らと共に天文館にある某人気居酒屋チェーン店へと向かった。ココは僕らのバンドの間で最近、大のお気に入りの場所なのである。ビール(勿論、発泡酒だろうが)も含め飲み放題、それに食べ物が7品も付いて、なんと2000円!しかもそれが“安けりゃ良い”というワケでも無く、食べ物がしっかり美味いのだ。正に“美味くて安い”!安いから行っているってだけじゃなく「美味いもん食いたい」って気持ちも同時に満たしてくれる店ってのは、そうなかなか無いだろう。そんなわけで行ったのだが、席に座って間も無く、気が付けば店内は物凄い煙で充満していて「なんか煙たいよね」を通り越して「コレって目が開けられないよね?」という会話とほぼ同時にけたたましい非常ベル。更に(映画の)“バックドラフト”の登場である。しかしながらこの状況の中、店員さんからは一切の説明も詫びもない。流石に心配になり、店内の“バックドラフト”を横目に鳴り止まない非常ベルの中、店員の女性に「どうした?」と尋ねると、満面の笑みで「大丈夫ですよ!」・・・・こうやって逃げ遅れた人は死ぬんだろうな、と本気で考えた瞬間であった。
 取り敢えず店長さんを呼んで貰ったのだが、彼もまた満面の笑みで「どうかしました?」というものだから、もしかしたらこの煙&非常ベル&“バックドラフト”が見えているのは僕らだけ?とか思いながら「帰りたいんだけど普通に会計する?」と尋ねてみた。だって、まだ飲み物は1杯も飲んでないし、7品ある予定の食べ物はまだ3品しか出てないのだから。しかし彼は満面の笑みのまま言い放つのである「はい!もう頼んだ後なので料金は頂きます」「この状況でも?」「はい。あと4品あります。なんならデザートまで出しますよ!どうぞごゆっくり!」・・・・隣に“バックドラフト”が居る状況で、である。思わず「ゆっくり出来るか!」と悪態を付きたくもなるってもんだ。しょうがないので言われるがままの料金をちゃんと払って店を出たがコレは酷い経験であった。外には消防車と消防隊員、それに警察も待機している中での出来事である。せめて「これコレこういう状況です」とかの説明があればまだ良かったのだが、最後まで店員・店長からの説明は全く無く、とにかく“笑顔の接客”を貫いて貰ったのだ。思えば他に2組ほどの客が居たが、彼ら(彼女ら)が普通に飲み会を続けていた姿にぞっと寒気を感じる。周りが普通に食事を続け、しかも店員さんからあの笑顔で「大丈夫ですよ!」と言われれば、そりゃもう安心してしまうだろう。で、取り返しが付かなくなった時、それは一体誰の責任なのだろうか?もしも僕だったなら新聞の記事を読んだとき「そんな状況なのに飲んでないで逃げろよ!」と、きっと客の感覚の方を疑問視すると思う。もしもこの店が別にお気に入りのお店とかではなかったり、初めて入った店であるとかであれば、こんなに悲しい気持ちにもならなかっただろうし、頭にもこなかったかもしれない。
 今回の『ベストキッド』を観る前、前情報の段階では正にコレと同様の気持ちであった。“好きだったから”故の寂しさ。84年の『ベストキッド』そして86年の『2』が、僕にとってあまりにも大き過ぎる存在だったから。転校してきた弱っちいいじめられっ子。しかも、彼をいじめるのは喧嘩空手「コブラ会」の主将(強過ぎ!)。絶体絶命のこの状況から、彼は1人の老人と出会い“カラテ”を身に付け、いじめっ子に“試合”という場で仕返しを果たし、更に可愛い彼女までgetしてしまうのだ!そして2年後、ぐっと和風テイストになった設定(沖縄)で・・・・正直、話は覚えていないのだけど、とにかくラストの台風とカワイ子ちゃん、そしてピーター・セテラの「Glory Of Love」だけが甘く切なく心の中に残っている。見るからに弱々しいラルフ・マッチオが、いかにもな日系人から空手を通じてその心を教わり、心身共に成長していく青春映画、それが『ベストキッド』なのである。『ロッキー』のジョン・G・アヴィルドセンが監督しているだけに、スポ魂映画としてもしっかりレベルは高いが、その本質はどちらかというと『ブレックファスト・クラブ』(85年)や『プリティ・イン・ピンク』(86年)などのジョン・ヒューズ映画と並ぶ(年代もほぼ一緒だし)“青春映画の金字塔”なのであった。(『4』は全く別物として)『3』に関しては何一つ覚えてもいないのだけど、とにかく『ベストキッド』という映画は、当時の男の子にとって『スターウォーズ』並み(いや、それ以上か?)の夢物語だった、はずである。
 しかし、今回の『ベストキッド』は、まず主人公が小学生という設定からして意味が違ってくるし、更に師匠がジャッキー・チェン。僕の世代からすると、この人はまた違う意味で本当の師匠なのである・・・・なんというか、もしもコレが『ベストキッド』ではなく、アレとは全く別物として製作・公開されたのであれば、僕の中ではまた全然違ったと思うのだ。何と言っても主人公は『幸せのちから』でその天才子役ぶりを発揮したウィル・スミスの息子ジェイデン・スミスだし、先にも書いたように、彼に“カラテ”を教えるのは我らが兄貴、ジャッキー・チェンなのだから!そう、1度あの『ベストキッド』から切り離して考えてみると、この映画がジャッキー・チェン久々の大傑作だとようやく気付くのであった。一見、スポ魂モノだと思わせておいて、実はとても温かく深い人間ドラマである・・・・そうか、それがオリジナル『ベストキッド』の良さだったわけで・・・。結局、同じなのだな。観ている途中からラルフ・マッチオやパット・モリタの面影は全く消え失せ、終盤には「そうそう、こういうジャッキーが見たかったのだ!」と大満足であった。老若男女、全ての人にお薦めしたい温かい感動映画だ。

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