ノルウェイの森

 うちの6歳と4歳になる息子は、寝る前に「なんか本読んでやるから好きなの持ってこい」というと本棚からかなりの高確率で「ふしぎな図書館」か「羊男のクリスマス」を持ってくる。特に「ふしぎな~」は読んでいるうちにどんどん目が冴えてきて全然寝ないので最近では「それ以外で・・・・」と付け加えるようにしているのだが。村上春樹というのは、もうこの世代から虜にしてしまうのだから凄い!と心底思う。
 以前、『ラブリー・ボーン』や『ゴールデンスランバー』のときにも書いたのだけど、僕は基本、映画の原作本を読まないようにしていて、その逆に読んだ本の映画化もなるだけ観ないようにしている。何故かと言うと・・・・は、前にも書いたので端折るとして、この『ノルウェイの森』に関しても同様であった。僕が村上春樹を最初に読んだのは・・・・何だったか思い出せないが、なんだか“緑の怪人”が出てくるような物語だったと思う。「コレって絶対、フランツ・カフカの『変身』を意識して書いてるな」とか偉そうにカッコ付けて通ぶった感想を抱いたのは覚えているのだけど。村上春樹といえば何と言っても「1Q84」。近年電子書籍化が進む中で“最後の大ベストセラー本”とも云われたこの作品がまず思い浮かぶが、正直、僕は(個人的に)あの3部作があまり好きになれず、読破後にその消化不良から改めて「ダンス・ダンス・ダンス」を読み直した程であった。そんなわけで僕にとっては「風の歌を聴け」、「1973年のピンボール」、「羊をめぐる冒険」の初期3部作と、その続編である「ダンス・ダンス・ダンス」が未だに“村上春樹と云えば”なのである(コレの理由も以前に書いたような気がするが・・・・)。が、一般的にはやはり彼の代表作と云えばこの「ノルウェイの森」か「海辺のカフカ」辺りなのだろう。勿論、僕も大好きな大好きな本である。しかし何故にこれまで自身の作品の映画化を頑なに拒否し続けてきた彼が今回は映画化を認めたのか?(しかも代表作とも云える原作で!)が大いに謎で、初めてネットか何かでこの映画化のニュースを見た時「絶対、ガセだろ」と思った程だった。で、改めて調べてみて驚いたのだが、てっきりコレが初めての映画化作品だと思っていたら、なんと既に「風の歌を聴け」や「トニー滝谷」それに「パン屋襲撃」まで!実に7本もの映画化作品があるらしいのだ!・・・・って、僕が知らなかっただけなのだろうけど。にしても、何故トラン・アン・ユン?!彼の映画を『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』しか観た事がなかった僕は異論でいっぱいで「絶対、観ない」と決めていたのだけど『青いパパイヤの香り』で納得。なるほど、この映像美なのだ。『天国の日々』や『シン・レッド・ライン』のテレンス・マリック並みの破格の映像美。この『ノルウェイの森』を映像化するんだったらレオス・カラックスとかラース・フォン・トリアーなんかが絶対だと思っていたのだけど、じゃなくて“映像美”でくるのか、と納得であった。
 どんなに原作に忠実に完成度の高い作品を撮っても、原作ファンは必ずブツブツ言うものである。映画も本も大好きな僕は、だから先に書いたようにその両作品のハシゴをなるだけ避けるのだ。映画と本(活字)というのはもう全く別物の芸術作品であるのだから、そもそも同じ感想を抱けるわけがなくて、もっと言えばそれを忠実に再現する必要性すら無いのだと思う。そう分かっているのだけど僕はブツブツ言う。だから避けるのだ。
 僕にとっての村上作品のキモはズバリ“性描写”だ。キモであり、嫌いな部分でもある。性描写を“嫌い”と書くとなんだか真面目ぶって聞こえるかもしれないが、まぁ、はっきり言うと彼の性描写は気持ち悪さすら感じてしまうのだ。恋い焦がれ、思い焦がれて“少しでも会えて顔が見れればもう幸せ”っていうレベルでなが~く溜めて、そこから一気に本番まで突入してしまう展開!“顔が見れるだけで嬉しい相手”と“手を握る”とかいった過程を一気に通り越して“ヤレてしまう”のである。彼の作品にはこういった展開が度々出てくるが、この展開自体や最中の妙に生々しい性描写が僕はど~にも苦手なのだ。良く言えば“想いのある、心のこもったセックス”なのだろう。しかし、コレを映像化した時点で全てが台無しになるような気がして・・・・活字だから最中の“心の声”が読め“愛のあるセックス”が掘り下げられるのだろうが、単に映像だけではそれはエロシーン以外の何でも無くなるのではないだろうか?どうやってそこに“愛”を描くのだ?と、素人が勝手に心配していたのだが・・・・なるほどぉ!そういうシーンになるんすか!?という程、実に見事な描き方!最初は断固反対していたくせに、いつの間にか「流石!トラン・アン・ユン!」である。
 村上春樹が「ずっとビートルズの『サージェント・ペパーズ~』を聴きながら書いた」と言うだけあり、全編に漂う音楽感(って言うかタイトルからビートルズの楽曲名だが)が素晴らしく、この“音楽感”ってのが原作に大事な要素の1つであるのだが、それをまた見事に作り上げているのがレディオヘッドのギタリスト、ジョニー・グリーンウッドだ。サントラも買いの1枚である。
 もしも、まだ原作を未読でこの機会に読んでみようという方、手頃な文庫本も出てはいるけれど、出来ればオリジナル単行本の赤と緑の上下巻で揃えてみてはどうだろうか。何て言うか、このジャケットって、いわゆるレコードジャケットの感覚っていうか・・・・このジャケットも物語とセットだと思うので。それはそうと、今年38歳になる僕がこの本を最初に読んだのは多分20歳そこそこの頃だったと思うのだが、本の中では38歳の主人公が20歳の頃を回想して描かれているのだなぁ、と改めて気付いた。まぁ、どうでもいいことだけど。

一番上にもどる      ホームヘもどる