映画ドラえもん
新・のび太と鉄人兵団
~はばたけ 天使たち~

 「ドラえもん」が嫌いな日本人は居ないだろう。っていうか、正に老若男女誰もが好きなアニメなんじゃないだろうか。例えば、72年生まれの僕は自信を持って「ドラえもん世代だ」と言えるけれど、もしかすると80年代生まれも90年代生まれも、もっと言えば僕の息子らもやはり「ドラえもん世代」なのかもしれない。去年30周年記念として発売された数万円のDVDボックスを迷わず大人買いしたほど勿論僕も大好きなのに、何故だか『のび太と鉄人兵団』はリアルタイムでは観ていない作品であった。“大人が泣けるアニメ”として伝説的な名作となっている程、有名な作品であるにも関わらず、だ。何故だろう?と思って考えたらこの映画は86年に公開されていて、ってことは僕が中学生の頃。「ドラえもん」から1番離れたい年頃だろうから無理は無い気がした。「ドラえもん」ってのは子どもの頃に夢中になり、そしてまた大人になってから子どもと一緒に好きになるアニメなのではないだろうか。先に書いたように「ドラえもん」の映画としては「1番泣ける」とか言われているのに何故だかその人気投票などではあまり上位に入り込まないのだけど、それも実際に観たことのある人には納得だろう。僕らが観続けてきた「ドラえもん」にしてはあまりにもぶっとび過ぎでルール違反な物語であるのだから。一見、単純で爽快な物語かと思いきや、実はその底辺には“祖国愛”や“戦争”、“人種差別”などが流れている。そして結局は原点として“友情”や“思いやり”なんだという・・・・。そのメッセージ性は究極に普遍的ではあるのだけど、同時に「子どもには理解出来るのか?」って感じで一体この映画のターゲット層はどこなのか?って疑問が残る映画だったのだから。
 CUT3月号に掲載されていた原作者 藤子・F・不二雄氏によるあとがきに「ドラえもんの大原則として、どんなに凄いひみつ道具が出て、どんなすごい事件が起きても身の回りの日常世界に影響を及ぼさない、ということがあります。しかし、回を重ねるうち、たまにはのび太の町そのものが破壊されつくされるような大事件を描きたいと・・・・」と過激なことを告白しているのだけどそれに続く言葉が、なんとも「ドラえもん」(の原作者)らしい素敵な発想なのだ。「そこで『鏡の世界』を作ることにしたのです。左右あべこべだけど、現実の世界とそっくりな世界。しかも、人がひとりも住んでいない。これなら安心して街をぶっ壊せます。これでドラえもん史上最強の『鉄人兵団』を迎える準備がすっかり整ったわけです」。
 先にも書いたように「子どもには理解出来るのか?」と不安だったのだけど、一緒に観に行った6歳と4歳の息子たちは充分に感動し満足していたようである。いつの日か彼らが大人になってまた観直す機会があったとき、「あぁ、こういうことだったのか」と改めて感動し泣けるのだろう。「理屈じゃなくて心に残るっていう。それが答えなんだと思う」という寺本幸代監督は07年にも84年の名作『のび太の魔界大冒険』を、よりドラマティックにリメイクさせファンから高い評価を得た人で、コレが2本目の長編作となるのだが、きっと彼女はこれからの“新・ドラえもん”シリーズの核になる人物になるに違いないと思う。今回もまたカット割りからセリフまで感動的なくらいオリジナルを忠実に再現しながらも、見事にそれを越える作品に仕上げているのだから。その大きな要因として新版で新たに登場するピッポというキャラ(正確にはオリジナルにも出てくるには出てくるのだが)。このピッポの存在のお陰で、原作にある“しずかちゃんとリルル”の友情に“のび太とピッポ”の友情まで加わってより奥行きのある物語になっているのだ。更にのび太とピッポの会話が全体を分かり易く解説するナレーターの役目を成しているのも重要だ。原作の良さを微塵も損なうことなく更に奥行きを持たせるというのはなかなか果たせることではないだろう。
 実は今回は別の映画で原稿を書き上げていたのだけど(前回も同じようなことを書いたが今回は原稿が遅れた言い訳ではなく)、東北地方の太平洋沖地震を考慮して幾つもの映画が公開延期になり、ちょうど僕がその前に書いていた作品も延期が決定した為に急遽、差し替えを書かなければいけなくてそれでこの『ドラえもん』にしたのだ。差し替えと言っても、こういう時に映画のレビューなんて・・・・と躊躇したのも本音だ。この春休み「映画どころではない」もっと言えば「映画を観れる環境にもない」子どもたちもたくさん居るのだろう。しかし、だからこそ、だからこそ映画という些細な娯楽を楽しんだって罰は当たらないはずだ。今回は直接の被害は受けていないにしても、かつて“8・6水害”という大きな天災を体験した鹿児島の人たちには哀しい思い出も甦り全く人事では無かっただろう。鹿児島の人には自分らに出来ることがあれば何でもやる覚悟があるはずだ。災害が頭から離れないまま観た為かラストの博士の言う「他人を思いやるあたたかい心を育てなければ・・・・」というセリフがズシンと心に響いた。
 東北の夜はまだまだ寒いのだろう。1日でも早く子どもたちに笑顔が戻る日をみんなで祈ろう。

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