コンテイジョン

 我が家では今“ゾンビごっこ”が静かなブームである。「何それ?」って、そのまんま“ゾンビごっこ”で、それ以上もそれ以下も、ない。子供3人と嫁、更には同居している母ちゃんまで巻き込んでの一大イベントだ。何の前触れも無く突然誰かが「脳みそを・・・・」と呻きだし、家族は逃げる。捕まればゾンビ仲間になり同じく「脳みそを・・・・」と生存者を追い回す!(ポイントとしてゾンビは走る事はできない)そして最後の生存者となった1人の勝ちである。コレはまたとてもその人の性格というか本性が出るから面白い。とにかく走って逃げまくり最後まで生き延びようとする7歳の長男に対し、5歳の次男は僕がゾンビになった(もしくは僕からゾンビが始まった)時点で家族とは真逆、すなわち僕めがけて走ってきて「仲間にして!」と胸に飛び込んでくる。怖い思いをしたくないから、ならば最初からゾンビが良いのだろう。因みに僕がまだ生き延びている間はずっと後ろにくっついて一緒に逃げているってのも何とも強かな一面である。このゲームの・・・・っていうか、そもそもの起源であるジョージ・A・ロメロの“ゾンビ”ルール最大の肝は、捕まった人も感染し“同類”となってしまう点であろう。そこが“鬼ごっこ”とは決定的に違う恐怖のポイントなのだ。例えば、いつだったか?NIKEのCMで街中の人々が全員で鬼ごっこをするっていう壮大で爽快な映像があったが、もしもアレが“ゾンビごっこ”だったら?それはもう一気に恐怖のバイオレンス映像になっていただろうし・・・・。やっぱ1番怖いのは何と言っても“感染”なのだろうな。そこにはもう、家族ですら警戒せざるを得ない絶望的な恐怖があるから。“風邪は移せば治る”という迷信的なものが本当ならば大抵の親は喜んで子供のウィルスを自分に移すだろう。しかし、現実は悲劇を倍増させるだけで移した人間が治る保証などどこにもないワケで。

 “人は毎分3~5回自分の顔に触れ、その同じ手でドアノブやボタン、他人に触れる。感染の危険がある人数は・・・・?”この『コンテイジョン』は、未知のウィルスのパンデミックにより、世界中が混乱に陥るパニック映画である。簡単に云えばそういうことなのだけど、どうだろう?単に「パンデミックのパニック映画」だとすれば95年の『アウトブレイク』の方が数段面白いかもしれない。もっとこう、人間ドラマ的な・・・・正にロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』(68年)や『ザ・クレイジーズ』(73年)に近い、いわゆる“究極に悲しい人間ドラマ”だと言った方が相応しい気がする。まず、何と言っても監督がスティーヴン・ソダーバーグ!人間を描く事でここまで上り詰めた未だインディ感満載の監督である。そして、そんな信頼の於ける彼だからこそ『オーシャンズ』シリーズ(01年~)を例に挙げるまでもなく実力派俳優がこぞって出演する豪華キャスト映画が実現するのだろう。今やその流れはテレンス・マリック以上ではないだろうか?しかし、ホントに今回もまた凄い!まず、マット・デイモンとジュード・ロウという旧友2人の久しぶりの顔合わせに(それだけでももう充分過ぎる気がするが・・・・)グウィネス・パルトローにケイト・ウィンスレット!それに最強個性派脇役ローレンス・フィッシュバーン!である。これだけの俳優が揃って、単なる「パニック・ムービー」であるワケがなく・・・・で、更に更に!特筆すべきはやっぱ、物語のキモとなる重要な人物を演じたマリオン・コティヤールだろう。今やフランス1の実力派女優と言っても過言ではないであろうマリオン・コティヤール。しかし未だ「誰それ?」感が大きく、何故にブレイクしないのか?もう不思議で仕方ないのだけど。リュック・ベッソンの『TAXi』シリーズ(97年~)に始まって、ハリウッド進出作であるティム・バートンの『ビッグ・フィッシュ』(03年)、そしてセザール助演女優賞を受賞したジャン=ピエール・ジュネ監督『ロング・エンゲージメント』(04年)、更には巨匠リドリー・スコット監督の『プロヴァンスの贈りもの』(06年)に、ジョニー・デップとクリスチャン・ベイルが共演したマイケル・マンの『パブリック・エネミーズ』(09年)、それにロブ・マーシャルのミュージカル大作『NINE』(09年)、最近ではクリストファー・ノーラン監督のディカプリオ映画『インセプション』(10年)など、数々のヒット作で主要人物を演じてきているにも関わらず、世間的には何故だかその名を知っている人が非常に少ない気がするのだ。この『コンテイジョン』でようやくそれが報われブレイクするのかな?それとも、やっぱり他の豪華過ぎる出演陣に埋もれてしまうのだろうか?この機会に是非とも彼女の代表作とも云える07年の『エディット・ピアフ~愛の讃歌~』も観て欲しい。きっとその圧倒的な実力に鳥肌が立つだろう。

 しかし、こんな話が映画の中だけの話ではないってのが・・・・想像すると心底ゾッとする。14世紀のヨーロッパの全人口の3割が命を落とした“ペスト”や、1918年~19年のわずか1年足らずの間に全世界人口の30人に1人を死に至らした“スペイン風邪”、WHOの早期対策でなんとか世界的なパンデミックは防げたが中国を中心に猛威を振るった2002年~03年の“SARS”、そして記憶に新しいところでは致死率こそ低かったものの、そのワクチンが開発されないままWHOがパンデミックを宣言した09年の“新型インフルエンザ”、それに、今後もパンデミックの可能性があると云われている“鳥インフルエンザ”などなど・・・・現実に数多く、というか常に隣り合わせにある恐怖。医学がどんなに進んでも、まるでイタチごっこのようにまた新たな脅威が発生する“ウィルス”ってのは何だか神の仕業のような気がして、とてつもなく不気味に思うのは僕だけだろうか?

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