アーティスト

 いやぁ~、凄い。コレは凄過ぎる。まさか今の時代で・・・・もっと言えば、僕の世代でこんな映画が“新作”として劇場の大画面で観ることができるとは。最近、3Dやなんかで“劇場で観る映画の価値観”というものを改めて再認識していたのだけど、本作はそれに輪をかけて“映画そのもの”の価値観を再認識させられる1本であった。何せこの映画は「今時まさか?!」の白黒サイレント・ムービーなのだから。

 3D映画がスタンダードになりつつある今、いやホントに「今時?!」の白黒のサイレント映画。にも関わらず今年のアカデミー賞では作品賞をはじめ主要5部門を独占したのだから凄い!しかも、サイレント映画としては第1回受賞作『つばさ』以来83年ぶり、モノクロ映画としては94年の『シンドラーのリスト』以来2度目、そしてフランス映画としては史上初なのだという。正に「快挙!」というに相応しい名作の誕生であろう。初めて今年の作品賞のノミネート作を見た時、僕の中では、まず巨匠スピルバーグの『戦火の馬』と(同じく巨匠)マーティン・スコセッシ監督で話題性は抜群だったけど、だからこそ・・・・の『ヒューゴの不思議な発明』、それに(巨匠には間違いないけど、実力と商業成績がどうにも比例しない)ウッディ・アレン監督作『ミッドナイト・イン・パリ』、(更に伝説的な巨匠の)テレンス・マリック監督にブラピ主演の(アカデミーの直前に行われ、その行方を左右すると云われるカンヌ国際映画祭では見事パルム・ドールを受賞した)『ツリー・オブ・ライフ』、同じくブラピの『マネーボール』などは、まぁ無いとして・・・・後はなんだろう・・・・?この〈Go to Theaters〉のコーナーでも以前に紹介させて貰った、9.11をテーマにした『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』?確かに凄く良い映画ではあったけど、でもコレはあまりにもアメリカ過ぎて敢えて選ぶかな?・・・・じゃ、残るは(コレも前回の〈Go to~〉で書いた)『ヘプル 心がつなぐストーリー』?・・・・でも、アカデミーを獲るにはテーマが偏っているし、ちょっと小作過ぎないか?・・・・ってことで、個人的にはもう間違いなくジョージ・クルーニー主演、アレクサンダー・ペイン監督の『ファミリー・ツリー』だと思っていたのだけど、まさか?まさか?!の・・・・であった。だって、何度も言うが、この2012年に“白黒サイレント”がアカデミーを受賞するワケが無いじゃないか。

 さて、サイレント映画と云えば“メロドラマ”だ。分かり易いほどに分かり易く甘いほどに良いメロドラマ(サイレントだから当然の流れか?)。王道である。ま、だからこそ僕はサイレント映画ってのがどうにも好きになれず、それこそチャップリンの映画くらいしか記憶にないくらいなのだけど。そういう意味ではこの『アーティスト』もベッタベタな王道メロドラマかもしれない。しかし何故にこんなにも泣けるのだろう?何故にこんなにも心を打たれるのだろう?観る前は正直「退屈なんだろうな・・・・」くらい思っていたのだけど、とんでもない!台詞が無いからこそ画面に集中させられる“引き込まれ感”ってのがハンパないのだ。勿論、それだけ面白いドラマがそこにあるからこそなのだろうけど。

 ところで、僕は『ブルーハーツ』が大好きだ。勿論『ハイロウズ』だって『クロマニヨンズ』だって大好きで、ほぼ全ての鹿児島でのLiveを観に行っているけど、だけど「やっぱブルハだよな」って確信するのは、思うに“次のイメージ”を裏切られないからだと思うのだ。聴きながら「次はこうくるだろうな」という予想を裏切られない心地良さ。僕みたいなド素人でも20年以上バンドをやっていると「こう行くと普通過ぎるから別なコード進行を考えようぜ」みたいな感じになるワケで、それはむしろごく普通のことだと思うだけど、そこを敢えて不変なく王道の音を鳴らし続ける凄さ。

 この映画の舞台は1927年から1932年までのサイレントからトーキーへと移り変わる激動の時代、ハリウッド黎明期である。サイレント映画のスター俳優ジョージ・バレンタインが駆出しの若手女優ペピー・ミラーと出会う・・・・実に分かり易く誰にでも今後の展開が予想できる入りだ。

 その“一般的な読み”通り、彼は自身の影響力を駆使して彼女をスターへと導くサポーターとなり(その見返りとして)彼女自身をGET!していくワケ。いやらしぃ~!めっちゃベタじゃん!と思うのだけど、それがまた心地良かったりして(笑)。で、更にその後がまた凄い!折しも映画産業はサイレント映画からトーキー映画へ。サイレント時代のスターであったジョージは自身の栄光にすがり続けた為に徐々に人々から忘れ去られ、残るのは愛犬ジャックだけ・・・・。一方、デビュー間もなく何の固執もないミラーは新しく到来したトーキー映画にもすんなり馴染み、あっという間にスターダムを駆け上がっていく。立場の逆転した2人の恋の行方は・・・・?

 もうベッタベタな“予想通り”の展開。なのだけど、僕らは何ひとつ裏切られないその展開にこそ心を打たれ躊躇なく涙してしまうのだ。

 監督はミシェル・アザナヴィシウスというフランス人。ずっとサイレント映画に憧れ、その製作者を崇拝してきた彼はごく自然の流れとして“サイレント映画”の製作に取り組もうとしていたらしい。が、当初は「今時、サイレント?」ってことで、企画の現実味すらなかったという。ま、無理もない、っていうか当然と云えば当然だろう。しかし、06年に彼が発表したスパイ・パロディ『OSS 117 私が愛したカフェオーレ』が絶賛され、急に現実味を帯びてくることに!・・・・因みにこの『OSS~』は、第19回東京国際映画際で上映され09年にはDVDもリリースされているらしいのだけど、ココ日本では殆ど無名映画だと思うのだが、僕が知らないだけだろうか?・・・・ま、何にしろこの映画の成功のお陰で彼は念願であった“本格的なサイレントムービー”の製作に取り組めることになったワケである。しかも『OSS~』の出演者ジャン・デュジャルダンと(ミシェル監督の妻である)ベレニス・ベジョを主演に据えて。

 作品の舞台である当時を忠実に再現するため、製作にはサイレント時代に採用されていた1.33:1のスクリーン比で、更に、1920年代当初と同様のフレームレート(1秒間に何コマ?というアレ)で撮影されたというのだから彼のサイレント映画に対するハンパ無い愛情が窺える。・・・・何と言うか、“何かを狙った”モノでも無ければ“敢えてサイレントで”とかいったモノでもなく、ミシェル・アザナヴィシウスが純粋にそれを撮りたい!作りたい!という“思い”から発信され実現したということが、この映画のサクセス・ストーリーそのものだと思うのだ。

 そうは言っても、劇場公開されなければ元も子も無いので、一応はカラーで撮ったのだという。スタジオから反対され、どうしてもモノクロ上映が難しければカラーで上映するという保険として。アカデミーで“衣装デザイン賞”も受賞した本作。「このショーの時のみんなの衣装は何色なんだろ?」とかふと思ったりして、今となってはカラーバージョンも観てみたい気がする。

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