ももへの手紙

 僕は平気で1〜2時間くらいは本屋さんで時間をつぶせてしまうくらい本が大好きなのだけど、やっぱり書店での文庫本の並び方がどうにも納得できない。目当ての本を探し出すのにいちいち苦労してしまうのだ。どうして出版社別なのだ?何故、著者別ではないのだ?もしもそれが「書店の棚卸しがやり易いように」だとか「出版社からの要望で」とかいう理由だとしたら我々愛読者は大いに怒るべきだろう。今時どんな小売業でも「お客様目線で」陳列されているのが常識であるだろうから。カレーはカレーコーナーに、調味料はその一角に。ま、書店のその理由は知らないのできっと僕にも納得できる理由があるのだろうけど(っていうか、ちゃんとした理由があって欲しい)。例えば、CDショップみたいにアーティスト別(著者別)に並べられないものなのだろうか?と昔からず〜っと疑問に思ってしょうがないのだ。そうしたら好きな著者の未読の本を容易に探すことができたりして、もっとずっと効率良く且つ楽しく書店での時間を過ごせるのに。それに、レーベル別に並んでいるCDショップなんて見たこと無いし。

 そういった意味では、ビデオショップでの陳列の仕方は独特でありながらも凄く理にかなっていると思う。監督や俳優別でなく“ジャンル別”。「今日はホラーを観たい」とか「泣けるドラマを観たい」とかに応える、正に“お客様目線”だ。僕はあまり邦画アニメは観ないのだけど、中でも好きなアニメ・ジャンルがある。「何系?」と言われても困るのだけど例えば『サマーウォーズ』とか『河童のクゥと夏休み』『千と千尋の神隠し』『となりのトトロ』とか・・・・何系というのか知らないけれど、これらの映画を全部観たことのある方にはその共通点に気付いて頂けるのではないだろうか?「コレが面白かったから、またなんか似たようなの観たいな」と思ったとき、レンタルショップに行けばそういったのが同じ棚に並んでいるから探し易く有難い。

 この『ももへの手紙』はDVDが出たら『千と千尋の〜』の隣に並んでいそうな、正にそんな映画だ。舞台は現代なのだけど“古き良き時代”が色濃く残る人々、家、町並み、の広がる小さな島。そして主人公“もも”が住むことになる祖父母の家がたまらなく良いのだ。むやみに広大な敷地に今ではなかなか見ることの出来なくなった“縁側のある古く大きな日本の家”。そこに吊るされたタマネギに、庭に転がるビールケース・・・・。しかしながら先述したように舞台は現代なので、古屋敷の居間には大型のプラズマテレビがあるし、島には高速船が毎日行き来しているワケで、必要とあらば何でも揃ってしまうであろう環境なのだと思われる。なのだけど、海に囲まれた町並みには築何十年だ?という古民家が建ち並び、住民が集まる小さな商店は野菜の横に本棚、その下にある段ボール箱にはお菓子類が入って売られている。郵便配達員はみんなの名前を知っているし、お爺ちゃん・お婆ちゃんの知恵と経験はみんなから尊重され必要とされているのだ。なんて幸せな世界なのだろう・・・・。舞台になる“汐島”は、橋で四国に渡れたりと間違いなく瀬戸内だと思われ「1度行ってみたいなぁ・・・・」と調べてみたのだけどやはりそこは“架空の島”であった・・・・残念。

 物語。お父さんを事故で亡くし母親と2人きりになってしまった“もも”は、母親の実家に引っ越して暮らすことに。そこはコンビニもない小さな島。正直で気さくな島の子供たちは“もも”に普通に接し、むしろ仲間に入れてあげようと努力をするのだけど、東京育ちの“もも”はどうしても慣れ親しむことができない。それに加え、父親と喧嘩したままになってしまったことを深く心残りに思っていて、更にはその父親が“もも”に書きかけだった手紙の謎を胸に秘めているのだった。その手紙とは・・・・「ももへ」その一言しか書かれていない。「お父さんは私に何を書きたかったのだろう?」いつも笑顔で気丈に振る舞うお母さんに対し「もうお父さんを忘れてしまったの?」という反抗心。そんなある日、彼女は古屋敷の屋根裏に住む妖怪を見つけてしまうのだ・・・・「えっ?!そこで“妖怪”?!」って展開である。しかもその妖怪が怖い!大人が見ても素で怖いし。この手の映画にありがちな“若干の可愛さ”なんて微塵も無くただただキモくて怖い風貌なのだ。“もも”に見えるその妖怪がみんなに見えるかどうか?という普遍的な設定ではあるのだけど、この映画が更にそれを超越しているのは“もも”が小学6年生だという点。もっと幼ければ「見た目で怖がらずに妖怪と友達に」とか単純になるのだろうけど、小学6年生というのは微妙過ぎだろう?「そんなん居るワケ無いし」と既に物心付いている年頃だ。ここがまたポイントなのだなぁ・・・・。「気がつけば、私、ひとりじゃなかった」というキャッチコピー、あぁ、そういうことかぁ、泣けるぅ〜・・・・。

 監督は沖浦啓之。『AKIRA』や『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』といった傑作で名を馳せるも99年の初監督作『人狼 JIN-ROH』以来、約12年ぶりの監督2作目だ。「何故にそんなに間が空いた?」と思うのだけど、この『ももへの手紙』に実に7年の歳月を掛けたというのだから驚きであり納得である。作風は前作『人狼 JIN-ROH』よりも作画監督・安藤雅司の『千と千尋の神隠し』や美術監督・矢野広司『魔女の宅急便』の雰囲気が色濃いように思う。去年末に行われた「文化庁メディア芸術祭」で優秀賞を受賞したり、今年3月の第16回ニューヨーク国際児童映画祭では長編大賞を受賞!更にはイタリアでの第14回フューチャーフィルム映画祭では最高賞であるプラチナグランプリを受賞した他、世界各国の映画祭で絶賛されているのだけど、何故だかこの手の映画はきっと劇場ではすぐに終わってしまうと思うのだ・・・・僕の勘だけど。だから早く劇場に足を運んで貰いたい。

 そうそう、原由子のエンディング「ウルワシマホロバ〜美しき場所〜」がまた最高だった!(桑田圭祐もコーラスで参加!)しかしながらサントラには収録されておらず、調べてみたのだけどその音源の発表すら未定らしい・・・・残念。

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