カラスの親指

 僕は映画とか音楽とか大好きなのだけど、それも極端に“海外の”に限定されていて、こと“日本の”それについては全くといって良いほどに疎い。特に、普段テレビを全然観ないのでアイドル系だとか芸能人だとかは皆目ダメだ。なので昔から“今の流行”ってものが分からずその話題には付いていけないので困るのだけど、色んな人と話すことの多い仕事上、好き嫌いとは別にそういったことは一応は知っておいた方がいいだろうし、若い人との会話についていけなくなってはまずいと思い“訊くは一時の恥”と親しい友人とかに「今リアルタイムで何(誰)が流行ってる?」と昔からよく訊いていた。が、それが仇となりよくハメられたりもしていて・・・・。例えば「冬は“MAX”、夏は“スピード”と名前が変わるアイドルグループが人気だ」とふっかけられ暫くそのグループは同一人物だと疑わなかったり、またある時は「今は亀出和也、“亀出(かめだし)くん”だよ。コレは知っとかないとまずい」と教えられ頭に叩き込んでいた時期、若い美容師さんが集まる飲みの席でちょうど芸能ネタで盛り上がり・・・・僕はココぞ!という思いで「あぁ、亀出くんね」と、それくらい知ってるぜ、当り前だろみたいな感じで会話に交じってしまい僕よりちょっと上のオーナーさんに「・・・・カメ出しちゃいかんでしょ」と静かに言われたこともあった。全く持って不本意な下ネタほど恥ずかしいものはない。僕はトイレに行くふりをしてすぐにその友人に電話し流石に本気で怒ったのを覚えている。ま、電話口からは彼の大笑いする声しか聞こえず余計に腹が立ったのだが。

 僕みたいに誰かにハメられたワケではなくとも、世の中には純粋に自分の“勘違い”で現実とは異なることを思い込んでいるってことは山ほどあるだろう。そう言えば昔、友人との飲みの席。目の前にいたバンド仲間と2人で話し込んでいると他の友人らがアニメ「ルパン3世」の有名なテーマソングの冒頭「♪ルパン the 3~rd!」というフレーズを歌いみんなで大笑いしているので「どうした?」と聞くと「いや、こいつがさ、『♪ルパンだぞ~!』のところを『♫ルパンだ、フ~~~!』だと思ってたんだってよ!『フ~~~!』って何だよ!ただのコーラスか!?アホかお前!(笑)!!!」と。っていうか「だぞ~!」も何だ?どっちもアホだ。

 ハメられたにしろ勝手に思い込んでいたにしろ、それに気付くきっかけがなく、且つ一生気付かなかったとしても別に生活に支障をきたす問題でなければ“間違った情報”を真実だと思い込んでいることってのは多かれ少なかれ誰しもみんなあるのではないだろうか?彼らが自分にしか聞こえないくらいの声で「♪ルパンだぞ~!」とか「♪ルパンだ、フ~~~!」とか歌っても誰に迷惑を掛けることではないのだから、そもそも訂正する必要すらなかったのかもしれない。全編を通し、正にそんな物語であった道尾秀介の傑作『カラスの親指』の“まさか?!”の映画化。加えて彼の初映画化作である。内容については一文たりとも書きたくはない。そんなの書くだけ野暮だろう?だって道尾秀介の原作なのだから。とにかく二転三転、どんでん返しの連続、そして更にそれら全てをひっくり返すラスト。

 本(文章)の読み易さってのを表す「リーダビリティ」という言葉があるけれど、それを指して言えば“村上春樹”に“東野圭吾”、それに“伊坂幸太郎”に“道尾秀介”辺りをまず思い出す(ま、あくまで僕個人的に、ではあるけれど)。中でも道尾秀介。最近では“哀愁・泣き”と“ノスタルジック”という作風になってきたけど『向日葵の咲かない夏』だとか『片目の猿』を例に挙げるまでもなく“道尾秀介”といえばやっぱり初期のこの辺だろう。読者を間違った解釈に誘導していく“ミスリード”を前提にした展開ってのは基本、絶対的な“リーダビリティ”があってこそ。この、ある種の矛盾点が彼の最大の魅力なのである。と思う。リリース年代的に言えば、“ミスリード”から“泣き”に作風が移行していくその丁度中間に位置するのがこの『カラスの親指』になる。だからか?本作は(彼の最高傑作とは言わないまでも)新旧両方の魅力が詰まった大傑作となっているのであろう。しかしながら、僕個人的な解釈だけでなく世間一般的に言っても“道尾秀介”ってのは「活字の達人」と同時に、最も「実写化」には向かない著者であったはずじゃないだろうか?(彼のファンこそそう思っていたはず)そんな彼の初の「映画化」作がこの『カラスの親指』・・・・コレは絶対観るでしょ?観たいよなぁ~・・・・。

 主演は阿部寛。今や“刑事”としては最も有名とも言える“加賀恭一郎”が板に付いている彼が、今回この“詐欺師のプロ”を演じるというのは、例えば『海猿』シリーズであんなに人々を救ってきた“ヒーロー”が一転して子供たちを殺しまくった『悪の教典』の伊藤英明に次いで「何で?!」と驚かせるキャスティングじゃないかと思う。・・・・ま、この人以外のキャスティングに関しては全く興味はないのだけど、とにかく“道尾秀介”の初映画化作!日本文学史的には歴史的な1本になること必至だろう。

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