レ・ミゼラブル

 例えば、生まれ育った田舎町を離れ、憧れの大都会へと向かうバスの中(舞台は70~80年代くらいが良いかもしれない)、見慣れた風景から段々と遠ざかっていく外の景色を見ながら、親元を離れていく寂しさやそれを超越する自分自身の未来への期待と不安などがMAXに達した時、こともあろうか突然“歌い出す”という奇行に出る主人公。公共のバスの中である。それはもうイヤホンからもれてくる“それ”とは質もレベルも違うだろう。「誰か止めてくれ」「注意してやってくれ」と念じ続ける僕の内心とは裏腹に、それまで無視を決め込んでいた(と思っていた)隣の席の黒人女性がまさか?!のコーラス!そしてサビに入ると運転手も含んだ乗客全員での大合唱!「お前ら全員グルだったのか?!」という“裏切られ感”はハンパない。僕はどうにも“ミュージカル”というものが苦手だ。こういったシチュエーションだけではなく、筋や状況、心の声なんかをいちいち“歌詞”で解説されるのも違和感を超えて不愉快にすら感じてしまうほど。ま、“ミュージカル”の方だって僕みたいな「分かってないヤツ」には観て貰いたくはないだろうけど。唯一そんな僕でも『ロック・オブ・エイジズ』(12年)と『ムーラン・ルージュ』(01年)はまぁ楽しめたのだけど、コレは僕にとって物語のテーマや流れる音楽が“rock”だったことと、それを歌うのがトム・クルーズやユアン・マクレガーだったということに他ならず、きっと本気で“ミュージカル”を好きな人にとってはあくまで“ミュージカル風”である邪道な作品であったに違いない。

 1862年にヴィクトル・ユーゴーが書いたフランス文学『レ・ミゼラブル』は・・・・って、僕はそれ以上は何も知らない。正直に言えば「1862年に~」ってのもネットで調べたし。でも“ヴィクトル・ユーゴー”という作家と『レ・ミゼラブル』という作品の名前はきっと誰もが知っているのではないだろうか。で、その殆どの人が僕と同様にそれ以上は何も知らないんじゃないか?とも思う。そして何故、原作である『レ・ミゼ~』が“ミュージカル”とイコールになったのか?そのベーシック的な金字塔作とまでなったのか?は、“ミュージカル”の歴史を紐解けばすぐに分かるだろうし決定打となった1作が存在することも間違いないだろう。でも僕は先にも書いたようにそこには全く興味が無いので調べてみようと思わなく結論を書けず仕舞いで申し訳ない。映画化作としては1918年にミュージカル作として最初の1本が作られているようだ。「映画」という概念が誕生したのが1900年初頭と云われているのでその最初の時期には既にこのミュージカル作品が存在しているってのが興味深い。それから何本もの映画化作が作られてきたのか?・・・・は、やっぱり僕にとってはどうでもいいことなので、申し訳ない。

 たった1本のパンを盗んだことで19年もの間投獄生活を送ったジャン・ヴァルジャン。仮出所中、衣食住を提供し助けてくれた司教の元から金目の物を盗み逃げ出すもすぐに捕まる。が、司教は「それは私が彼にくれた物。よほど慌てたのでしょう、1番高価な燭台を忘れて行くとは」と銀の燭台まで差し出すエピソードは何だかこれまでにも幾度となく“教訓”的な話として聞いてきた気がするけど、なるほど、コレがオリジナルのエピソードなのだな。そんな教訓を活かしつつ改心して市長にまで上り詰めるヴァルジャン。そして彼を追い続ける警官ジャベール。意図せず自身の工場を解雇されたがゆえ売春婦にまで身を落とし死んでいったフォンテーヌの独り娘コゼットを引き取ったヴァルジャンは、彼女の為に一生を費やしていこうと心に決める。“神”に救われ、“神”の名の下にコゼットを守りぬくと誓ったヴァルジャンと、同じく“神”の名の下に悪者ヴァルジャンを捕まえると誓ったジャベール。そこにコゼットの初恋の相手マリウスが現れ必然的にマリウスに恋するエポニーヌは失恋、娘を思う“愛”の強さ故の父親の苦悩・・・・そう、コレはベッタベタに「愛」と「神」の物語だ。

 全篇を通し台詞の全てが歌という“ガチ・ミュージカル”に加え、物語の暗さ・重さ・理不尽さに30分程過ぎた辺りで僕は席を立とうか本気で迷った。この先まだ2時間以上コレに耐えられる自信が無かったから。が、大人になったコゼット(アマンダ・セイフライド)が登場し、その小鳥のさえずるような魔法の歌声を聞いた途端、映画は俄然面白くなってくるのだ。コゼットとマリウスの門扉の前での感情表現が素晴らしい!それに伴い失恋してしまうエポニーヌの雨の中での演出が素晴らしい!!バルジャン(ヒュー・ジャックマン)の改心と愛の深さ、それにジャベール(ラッセル・クロウ)の覚悟と選択の描き方が素晴らしい!!!歴史を動かし人の命を奪うほどの“革命”と1つの“愛”とがイコールの比重で描かれているのが素晴らしい!!!そして「フランダースの犬」の最終話のようなラストが最高に素晴らしい!!!これこそが全ての原点だからこその“ベタ”さ!多分、原作ではもっと丁寧に描かれていたのであろうルイ18世・シャルル10世の復古王政時代の「フランス革命」やナポレオンの「百日天下」といった歴史的背景が物語的に随分と薄くなっているのは致し方ないとしても、コレぞ物語の持つ力なのだと改めて再認識・・・・というか初めて実感させられたような圧倒的な力量。なるほど、コレが『レ・ミゼラブル』という物語なのか。これだけ長い間語り継がれてきたことに妙に納得であった。ま、だからといって“ミュージカル作”を好きになったワケではないけれど・・・・。

一番上にもどる      ホームヘもどる