東京家族

 重松清の『とんび』が凄い!竹原ピストルが大好きな僕にとってまるで彼の歌を繋いで1冊の本にしたような物語の“泣きの破壊度”といったらそりゃあ凄い・・・・というか酷いもんだった。今までで「1番泣けた」と思っていた伊坂幸太郎の『終末のフール』や角田光代の『八日目の蝉』なんかを軽く超越する泣き度!JRの車内とかカフェとかの公共の場で何度号泣したことか。1度なんかオプシア内のスタバで近づいてきた知り合いが僕が号泣しているのを見止め気付かぬフリをして通り過ぎてくれたこともあった。男手ひとつ、不器用ながらも有り余る愛情を持って育てたアキラの上京がとうとう決まり、2人きりの最後の夕食(しかもカレーライス!)だったのだから仕方がない。そのちょうど同時期に、しかも平行して読んでいたのが『東京家族』と椰月美智子の『るり姉』だったのでこの3冊は僕の中で勝手に“泣けに泣けた家族愛3部作”と名付けられ、もうどれがどの本のエピソードだったか?誰がどの物語の登場人物だったか?完全に分からなくなっている。しかしこの『東京家族』ってのは正確には“原作”ではなく映画の文庫化なのだな。

 今年の初め「鹿児島ニューイヤーコレクション」というファッションショーに携わらせて貰ったのだが、そのヘアメイクのヘッドを務め国内のみならず数々のコレクションで大活躍しているT氏と一緒の飲みの席、その巨匠から「感性を鍛えることが大事です。その為に“本当に綺麗なもの”“本物の美”をたくさん見て下さい」という言葉を聞きながら僕は無意識に「原節子」さんを思い浮かべていた。今までだって「好きな女優さんって誰?」とか訊かれるといつだって真っ先に彼女を思い浮かべるのだけど、そう答えたところで「はぁ?」という反応だろうし例え彼女を解説したとしても話はそれ以上続かないだろうから実際に口に出して言ったことは殆どないのだけど。“日本女性の美”を追求したようなその佇まいや喋り方・雰囲気などは時代を超えるごとにどんどん「彼女以上」はあり得ないという次元に入り、更に神話化されていくのだからもう僕にとっては文字通り“永遠の”なのである。そんな原節子さんを初めて知ったのが映画界の伝説とも云える巨匠・小津安二郎監督の『東京物語』(53年)だった。

 『幸福の黄色いハンカチ』や『男はつらいよ』シリーズで今や日本を超えて世界レベルで巨匠とも云える山田洋次監督、その50周年の記念作(で、81作目!)となったのが、63年に亡くなった小津安二郎監督にオマージュを捧げる本作『東京家族』である。田舎から子供たちに会いに東京に出てきた両親。しかし、それぞれ自分らの生活に一生懸命な子供たちはなかなか両親の相手をしてあげられない・・・・どころか、若干ウザい、早く帰ってくれないかなぁ・・・・みたいな。両親のことは大好きだし決して大事に思っていないワケではないのに。53年の『東京物語』では「親より先に死んだ=親不孝者」だった昌次が、本作『東京家族』では「いい年して定職も持たず結婚もしていない=親不孝者」という今風の設定に変わっていて、それに伴い(当然ながらその嫁・婚約者)紀子の設定も変わってくるのだけど、この2人が大きく物語の肝となってくるのが本作・山田洋次版のポイントだろう。しかし、それ以外は全くと言っていいほど変わっていなくて物語の本筋どころか台詞すら殆ど同じなのに驚きだ。だって、これだけ大きなポイントが変わっているのに伝わってくるメッセージが同じってのは凄いじゃないか。まるで間取りも外見も全く同じ家の“大黒柱”のみがすっかり入れ替わってしまったかのよう。「おかしくて、かなしい。これはあなたの物語です」というコピーが謳う通り、60年も経た今でも同じ物語が人々の共感を集めるってのが凄い。それだけ普遍的なテーマなのだろうな。映画全体としても、巨匠・山田洋次監督の(その更に上をいく)小津安二郎監督に対するリスペクト感満載で往年の映画ファンにはたまらない。一語一句を大切に丁寧に伝える台詞まわしに喋り方、思わず「素人か!?」ってツッコミを入れたくなる役者さんの演技(だからこその人間の生々しさ!)で油断させといて気が付くと超一流の演技にすっかり物語にハマっているという・・・・。更には、登場人物がまるで観客に語りかけているようなカメラアングルや、無意識に足下を見てしまっている低目の構図(コレは何故だろう?ただ単に家の中を広く見せるためか?それとも生まれ育った我が家を無意識に子供目線で見せるトリックか?)といったような“小津安二郎節”が満載なのだから、いや、コレはたまらないよなぁ・・・・。実家の様子が今は誰も住んでいない祖父母の家に似ているような気がしてきたり、橋爪功演じる“父”が3年前に亡くなったお爺ちゃんに見えてきたりと不思議だった。で、一番気になったのが、原節子さん演じた“紀子”を今回は誰が演じるのか?・・・・蒼井優か、なるほど、納得。

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