フライト

 今年のアカデミー作品賞を受賞した『アルゴ』が今月15日までミッテ10で再公開されているようだ。まだギリギリ間に合うんじゃないだろうか?未観の(映画好きな)方は是非とも!いや~、コレはホントに凄い映画だった。「でも既にDVDも出てるし・・・・」ってのも同感だけど、やっぱ劇場で観るそれとは全く別モノだろう。以前ならばこういった“賞”とか“世間的評価”ってのを毛嫌いするのが「映画通」だったのだけどココ数年のアカデミー賞はそんな「映画通」にも認められる、と言うか正に「通好み」するような作品が受賞しているから面白い。明らかに関係者が意図的にそういう路線に持って行っているのだろうな、と思う。世界最高峰の映画賞である「アカデミー」の威厳を保つためにも。それにしても今年のアカデミー賞ほど的を絞りきれていない結果は珍しいだろう。どれかが独占するワケではなくそれぞれの部門で見事に受賞作が分散した感じ。それだけ接戦だったのか?単に「決定打」が無かったのか?第67回アカデミー賞で作品賞や監督賞、他主要6部門を独占した『フォレスト・ガンプ』のロバート・ゼメキス監督と、『トレーニングデイ』(01年)で黒人俳優としては史上2人目のアカデミー主演賞を受賞したデンゼル・ワシントンがタッグを組んだ!ってのが『フライト』の売り文句だ。だからなのか?何故だかこの映画には“優等生”的なイメージというか、ファミリー層で楽しめるような開放感を感じてしまうのは僕だけだろうか?観る前は「ゼメキス×デンゼルの映画が何故PG-12指定なのだ?」と疑問に思ってしまったのだけど・・・・

 「彼は英雄か犯罪者か」というキャッチコピーが全然甘く思えるほど、この映画は物凄く重たくダークな物語だ。とても子供と一緒には観られない。機体の故障で墜落した旅客機を“背面飛行”という超荒業で乗り越え102人の乗員中96人の命を救った(客室乗務員2名と乗客4名の計6名は死亡)ベテラン機長ウィトカー。同様の故障を負った旅客機をシュミレーションで操縦した結果10人中10人全ての熟練パイロットが機体を墜落させ乗員全員を死亡させてしまうという結果をみても、彼の技術が真に神業で奇跡的な操縦だったことが証明され、全米中から一躍“英雄”だと崇められる・・・・のだがしかし!彼の血液からアルコールが検出されたことから一転して糾弾される立場に・・・・。離陸直後のウィトカーの常識を逸した操縦がそれを引き起こしたのではないか?という疑問が若干残るも、墜落した原因は“機体の故障”だったことは明確で、やはり彼の操縦が多くの乗客を救ったことには反論の余地は無い・・・・でも、飲んでたんだよね?・・・・という。とにかく機体の故障を追求したい「パイロット組合」と、機長の飲酒を理由に機体の故障から矛先を逸らせたい航空会社。更には「(それだけの技術があれば)もしも飲んでなければ1人も死なせることなく着陸させられたのではないか?」という遺族の疑問も交じり・・・・いや、もっともっと多くの“それぞれの”思惑や疑問が交じり映画は混沌としていく。物語自体はとても分り易くシンプルなのだけど全く持って一筋縄ではいかないのが“感情論”というものだ。“モラルとは何か?”が鋭い刃物のように観る者に問いかける。

 特殊効果(撮影)で成り立っている映画が多い中、あくまで“物語を描くためにそれを用いる”使い方をしている映画は珍しい方だと思う。飛行機が離陸してから不時着するまでの映像がとにかく凄い!もうコレだけで劇場の大画面で観る価値があるくらい。きっと制作予算の8割くらいをこのシーンに費やしているのではないだろうか?と思うほどだ。で、その後は実は意外なくらいに地味なドラマなのだけど、この冒頭のシーンのみで本作を“ハリウッド大作”に昇華させている辺り、やっぱロバート・ゼメキス凄いな!って感じだ。代表作『フォレスト・ガンプ』(94年)にしても然り、僕ら世代で言えば『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85年~)にしても然り、ゼメキスは一貫して「物語を描くために特撮を用いる」監督なのだ(04年の『ポーラー・エクスプレス』なんてその最たる例かもしれない)。そして主演のデンゼル・ワシントン!先にも書いたように『トレーニングデイ』で黒人俳優ではシドニー・ポワチエ以来、史上2人目のアカデミー主演賞を獲ったってことで有名だけど、じゃ「何に出てた人?」って言われると意外にも思い付かない俳優じゃないだろうか?僕も嫁に訊かれて「『トレーニングデイ』でアカデミー獲った・・・・知らない?最近だと『デンジャラス・ラン』とか『アンストッパブル』だとか『サブウェイ123』とか・・・・え?知らない?じゃあ・・・『マイ・ボディガード』とか『タイタンズを忘れない』・・・・『マーシャル・ロー』は?」とか言っても、やっぱり「分からない」と言われてお手上げであった。個人的には圧倒的にスパイク・リーの『マルコムX』(92年)の~なのだけど、それこそ分からないだろうな・・・・と思ったり。で、また脇役も凄い!『オーシェンズ11』~『13』(01年~)や『アイアンマン2』~『3』(10年~)のドン・チードル!この弁護士役は『ホテル・ルワンダ』(04年)や『クラッシュ』(04年)のキャリア最高峰な頃の彼を思い出させるほどの魅力だ。そして相変わらずイカれ役のジョン・グッドマン!『ビッグ・リボウスキ』(98年)や『未来は今』(94年)『バートン・フィンク』(91年)といったコーエン兄弟の常連俳優で個人的にも大好きなのだけど、意外にも(?)今年・去年のアカデミー作品賞受賞作『アルゴ』と『アーティスト』(11年)にも重要な役で出ているのだなぁ。

 実は、何も予定の無い休みの日なんか朝から飲んでいるほどの大のビール好きな僕なのだけど、27までは全くと言っていいほど飲めなかった。親父がひどい呑兵衛で、幼い頃から呑んでは理不尽な親父を見て育ってきたので無意識に「酒」に対して抵抗を感じていたのが1つ、それから脳梗塞と癌を患いながらもやっぱり酒を止められなかった親父をいつ病院に運ばなければいけないか?を常時思うあまり、いつでも運転できるよう酒は飲まないようにしていたのが1つ。そんな理由から「酒は飲めない」と公言していたのだけど、親父が死んでそれら全ての呪縛から開放された僕は文字通り「バカみたいに」飲むようになってしまった。やっぱ血は争えないのだなぁ・・・・と悲しくも、嬉しくもある。主演のデンゼル・ワシントンが「ハリウッドの1流スターにも出番前に必ず1杯ひっかけなきゃならない人を何人も知っている」と白状するように、こういう人は一般的にも多く存在するように思う。僕の場合は、バンドのLive前に飲めば飲むほどに自身の演奏が滑らかに巧くなっているような気がするのだけど、それは単にどんどん「分からなくなっている」だけで実際にはヒドい演奏をしているのだと思うけど(笑)だけど、中には本当に(適度ならば)調子が良くなる人もいるってのも事実だと思うのだ。前に友人から聞いた面白い話を思い出す。「ユンボ」の達人であるその“おっさん”は朝来た時は手が震えておどおどしているのだけど、いつも持参している「ワンカップ大関」を1本飲むと手の震えはピタリと止まり抜群の仕事をするのだという。不謹慎ながらも僕は「メッチャROCKなヤツじゃん!」と、その“おっさん”をカッコ良く思ったりして。この『フライト』で描かれる男も、言ってしまえば「メッチャROCK」なヤツだ。それを敢えて「ROCK」な映画にはしていないところがキモなのだな。いっつも呑んでばかりいる僕は今でも現役で“ROCKバンド”をやっているんで「ま、それもROCKだろ?」と勝手に収めていたのだけど、やっぱり世間的にみたら単に「飲兵衛」でダメな“おっさん”なんだろう、と思い知らさせれた1本だった。

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