マン・オブ・スティール

 アメリカン・コミックス初の“スーパーヒーロー”であり、全てのヒーローの原点である「スーパーマン」。アメコミ実写映画化が続くハリウッドで遂に満を持しての登場である(06年に『スーパーマン リターンズ』という映画があったが、ま、アレは置いといて・・・・)。初めて「スーパーマン」のコミックが発表されたのはアメリカが大恐慌時代であった1938年。人々は仕事を失い貧しい生活を強いられている中、みんなの“夢”と“希望”を託されてスーパーヒーローは登場したのだろう。それから現在に至るまで物語はまだずっと続いているのだから凄い。しかも、第二次世界大戦やベトナム戦争、911などの歴史的大事件を経る度、その物語、メッセージ性、正義のあり方、などが常に変化しているという。コレはもう正しく「アメリカの歴史と共に作られてきた」という捉え方がピッタリ合うのではないだろうか。とは言っても、僕は今まで一度たりともコミックは読んだことはなく、78年~87年のクリストファー・リーヴが演じた4本の映画しか知らないのだけど(中でも、リチャード・ドナー監督の第一作目『スーパーマン』(78年)の1本が圧倒的!『2』~『4』は無かったことにしてもいいくらい 笑)。コミックやTV版にあまり馴染みのない僕にとっては・・・・いや、きっと僕ら世代にとっては「スーパーマン=クリストファー・リーヴ」なはず。26歳でスーパーマンになった彼は43歳の時、落馬事故で首から下が麻痺し車椅子生活に。それから世界中にいる半身麻痺患者の独立を支援するため財団を設立し活躍するも04年に心不全の為わずか52歳で亡くなってしまうのだけど、僕にはどうしても彼の人生がスーパーマンのそれと重なってしまって「スーパーマン」に対してどこか切なく哀しいイメージを持ってしまっていて・・・・。それにしても何故「空を見ろ!鳥だ!飛行機だ!いや、スーパーマンだ!」なのだろう?「鳥か?飛行機か?いや~」ならば分かるが、一体何故そんなに鳥や飛行機にテンション上げているのか?子供の頃からずっと疑問だ。

 クリストファー・ノーラン監督とクリスチャン・ベイルが描く08年の『ダークナイト』がその最高峰だとして、近年のアメコミ映画は“シリアス・ドラマ”として描かれるのが主流である。それはきっと(前回の『スタートレック』でも書いたが)“善悪”をはっきりした“白黒”だけで判断することが困難な世の中になった為に、脳天気に「善VS悪」を描いたのでは観客が納得しなくなったからだろう、と思う。遡ればこの流れを作ったのは00年の『X-メン』なんじゃないだろうか?その作風から想像すれば意外な気もするけど、ヒーロー(ミュータント)の苦悩と葛藤が軸に描かれるアメコミものはアレが最初だった気がする。その『X-メン』のブライアン・シンガーが監督した06年の『スーパーマン リターンズ』、何故だろう?僕は「スーパーマンの眼球に鉄砲の玉が当たって砕けるシーン」しか覚えていない。スーパーマン役だってブランドン・ラウスという正統派イケメン俳優だし大物ケヴィン・スペイシーだって出ているのに・・・・。80年の『スーパーマンⅡ』から直結するこの物語と、原作を忠実に描いた世界観ってのが“今のアメコミ映画”にそぐわなかったのか?『X-メン』で自らその方向性を示してみせたブライアン・シンガー、どうした?!と言いたい。しかし、ラブロマンスに比重を置いた『リターンズ』は、時代が違えば・・・・もう少し明るい時代がくれば、絶対に再評価されると思うのだが。

 最近のアメコミ映画の王道である“シリアス・ドラマ”はこの『マン・オブ・スティール』でも如実である。いやむしろ、その決定打と言ってもいいくらい。クリストファー・ノーランが絡んでいるということも然り、予告編の雰囲気にしても、物語全体の長尺にしても、彩度とトーンをぐっと落としたスーパーマンのコスチュームからしても、ある程度の覚悟と心構えは出来ていたのだけど、それを軽く超越するシリアスさ!・・・・暗っ!重っ!でも絶対に子供も楽しめるという絶妙さと老若男女に訴えかけるメッセージ性は凄い。劇中「悪」として描かれる“ゾット将軍”率いる軍団はスーパーマンと同じクリプトン星の同胞であり同じ身体能力を持つワケで・・・・そう!その“力”をどう使うか?が要なのだな。それは悪にも善にもなりえるという。スーパーマン=クラークの育ての親が素晴らしい!「やっぱ、育て方なのだなぁ・・・・」と深く考えさせられるほど(笑)。周りの友達と違う自分の能力に戸惑う幼少時代・・・・母親の包容力が温かい!その能力が原因でいじめられる少年期・・・・親父の見守り方がデカい!そして彼が大人になった時・・・・これからの生き方全てを教えこむ親父の死に様に泣ける!更には“スーパーマン”となった常識を超える息子に対しても何一つ変わらぬ包容力で支える母親の愛情の深さ!そして、人間には無い“悪者”と同じ能力を持ちながらも人々から“ヒーロー”だと認められる過程が素晴らしい!それは全て両親が教えてくれたことなのだから・・・・子を持つ親としてはもう泣けて泣けて仕方ない。そして何と言っても、生みの親ラッセル・クロウに、育ての親がケヴィン・コスナーとダイアン・レインという配役が完璧過ぎる。で、スーパーマン役のヘンリー・カヴィルがまた凄い!他のアメコミ・ヒーローとも違い“プライベート感”が全く出ずブレない正義感!コレはなかなか簡単ではないだろう。なんでも、J・J・エイブラムス脚本にマックGが監督する予定だった幻の「スーパーマン」で主演が内定していたのだけど、同じくその役で争っていたニコラス・ケイジが激怒して企画そのものがボツになったという・・・・ニコラスが激怒した理由として「役を取られた」というのではなく、オーディションでスーパーマンのコスチュームを身を纏ったニコラス・ケイジにスタッフ全員が大笑いし、暫く笑いが収まらなかった・・・・ってのが原因であるというのだけど。いやぁ~、とにかくヘンリー・カヴィルで決まって良かった。先にも書いたように「クリストファー・リーヴ=スーパーマン」である僕にとって、ラストでヘンリーがクリストファーに見えた瞬間がまたこの映画の泣き所だと思うから。あと、コスチュームの胸にある「S」の文字はてっきり「Superman」の「S」だと思っていたけど、そうじゃなかったことも新たな発見であった(笑)。

 全てを超越したスーパーヒーローである「スーパーマン」の正体は、実は地味で全然パッとしない新聞記者のクラーク・ケントだった!ってのが物語のキモだと思っていたのだけど、この『マン・オブ~』にはそんなオチャラケは皆無である。だからジョン・ウィリアムスのかの有名なテーマ曲が流れないのも不満ではあったが、まぁ、納得するしかなく・・・・。が、そんな年輩方にもしっかり応えるラストがまた素晴らしい!なるほど!コレは新聞記者クラーク・ケントになる迄の話なのか!ならば、エンディングはあのテーマソングで!・・・・とまでは流石にいかなかったが、往年のファンにも応える細かい演出は本当に素晴らしい。前半では、オリジナルのもつ「アメリカの片田舎」を舞台にした設定で明らかにその年代の映画を意識した映像の作りが凄い!映像の粗さ、色、トーン等・・・・まるで80年代の映画を観ているような懐かしさ(3Dなのに!)。「あぁ、この路線で行くのね」と思わせといて、後半は一変して大都会を舞台にした最先端技術を駆使した未来的映像!いやぁ~、コレは凄い。ウォシャウスキー兄弟が99年の『マトリックス』で、まるで時間が止まったかのようなスローモーションを鮮明な映像で描く“バレットタイム”という映像技術を開発し一世を風靡。アクション映画ではすっかりそれが主流となり、07年の『300 スリーハンドレッド』ではその究極とも言える映像美を見せたザック・スナイダーだが、本作『マン・オブ~』ではその両極端とも言える、スピードを重視した映像。とにかく早い!脳が付いて行けないほど早い!だけど、今そこで何が起こっているか?はちゃんと分かるという・・・・“バレットタイム”とは真逆にあるこの映像は絶対に今後量産されるであろう革新的な映像技術で、まずコレが一番の見どころ。物語的には、キャラを丁寧に描き過ぎて2時間半にもなってしまった尺は正直“語り過ぎで長い”という感も否めず、もう少し端折っても良かったのでは?と思わないでもないけれど、コレがこの後続く“神話”のベースだと思えば、まぁ、納得できるのでなんとか許容範囲。

 それにしても、ハリウッドに於ける「アメコミ」実写化映画ブームはいつまで続くのだろう?ぶっちゃけ、もういい加減飽きてきたよなぁ・・・・とも思う今日この頃だけど、この『マン・オブ~』もヘンリー・カヴィル×ザック・スナイダー監督他、本作と同じスタッフ・キャストで既に続編も決定し、現在「2」が製作中である『アメイジング・スパイダーマン』(サム・ライミ×トビー・マグワイア版ではなく去年からスタートしたアンドリュー・ガーフィールドの)なんて既に「4」まで製作発表済み!(笑)更には今回の『マン・オブ~』を皮切りにDCコミック・ヒーローが集結する『ジャスティス・リーグ』の噂まで!アメコミ2大出版社として「DCコミック」のもう片方である「マーベル・コミックス」の同企画モノ『アベンジャーズ』の歴史的大成功に触発されてであろうことは明確なのだけど、共演するヒーローの中でも一番の要である「バットマン」はクリストファー・ノーラン監督もクリスチャン・ベイルも全否定。確かにあの3部作が持つあまりにも完結した独自の世界観には他の“ヒーロー”たちと交わる余地など微塵も無いだろうけど、だからこそ観てみたかったのも本音で・・・・じゃ、誰が「バットマン」やる?となると途端に興味が失せたり(笑)。で、他のメンバーは?・・・・「グリーンランタン」?・・・・あぁ、そう言えば『レジェンド・オブ・ゾロ』(05年)やダニエル・クレイグ版「007」の第一作目『カジノ・ロワイヤル』(06年)のマーティン・キャンベル監督がライアン・レイノルズを主演にした『グリーン・ランタン』(11年)ってのがあったなぁ・・・・全然覚えてないけど。他は?・・・・「フラッシュ」?「ワンダーウーマン」?う~ん、全くもって微妙(笑)。でも、考えたら『アイアンマン』に『キャプテン・アメリカ』、『ハルク』『マイティ・ソー』の方こそ当時の知名度を考えたらずっと“微妙”であり、「スーパーマン」と「バットマン」がいるだけでも「ジャスティス~」の方に軍配が上がりそうなくらいだ。そう思えば「それぞれのキャラを主役にした単独映画をまず作って・・・・」という5年間に渡る「アベンジャーズ・プロジェクト」がいかに凄かったか?その集大成である『アベンジャーズ』がいかに計算づくの大ヒットだったか?を改めて実感する。DCもコレくらいやってくれれば面白いのだけど。

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