キャプテン・フィリップス

 09年4月、ソマリア沖で海賊に襲われ4日間にわたり人質となったコンテナ船「マークス・アラバマ号」の船長リチャード・フィリップスの回想録「キャプテンの責務」を映画化した本作。08年にも日本の原油タンカー「高山」が襲撃を受けたりと、なにかと“ソマリア海賊”は有名だけど、“海賊”といえば「ワンピース」か「パイレーツ・オブ・カリビアン」くらいしかイメージできない僕には正直イマイチその怖さがピンとこなったのだけど・・・・。当然のことながら本物の“海賊”にはブルックやジャック・スパロウのようなユーモアは皆無だ。「一隻やろう」「一旗上げるぜ!」と村を代表して荒海に出て行く海賊たちは本当に怖い。更に、その武装した海賊に、非武装の人間がどう対応するか?極度の緊張感を保ち続ける2時間強。

 まずこの映画のポイントとして、監督がポール・グリーングラスであること。もうコレだけで映画の方向性の予測が付くしハズレが無いことは保障できるだろう。近年では『ボーン・アルティメイタム』(07年)に『ボーン・スプレマシー』(04年)といった「ジェイソン・ボーン」シリーズで有名な彼だけど、元は、1972年に北アイルランドで公民権運動デモの最中に非武装の市民がイギリス軍に銃撃され14人が殺害された歴史的事件「血の日曜日事件」(ジョン・レノンやU2の楽曲でも有名)を映画化した『ブラディ・サンデー』(02年)で一躍有名になった監督だ。その後も、911同時多発テロ以降、初の事件の映画化となった『ユナイテッド93』(06年)で、ハイジャックされたユナイテッド93便の機内を描くという快挙に出て物議を醸したりと、硬派で社会派な監督で知られている。手持ちカメラを駆使した映像は、だからこそ、まるでドキュメンタリーを見ているかのようなリアル感があり緊張感がイヤでも高められるワケで、その手法をアクション映画に活かしたことで「ジェイソン・ボーン」シリーズは同類映画とは一線を画す大ヒットを記録したのだ。だが本作はそのお得意の「手持ちカメラ」を使っていないにも関わらず、全篇に渡り極度の緊張感を保って描かれているのが凄い!

 キャプテン・フィリップスを演じるトム・ハンクスが「実際にリチャード・フィリップスに何度も会い、色々と細かく質問して役作りを行った」と語る通り“現実を忠実に再現した”作風は実にポール・グリーングラスらしい。実際に使われたファイバーグラス製の救命ボートを本物そっくりに複製したり、ボーイング社の無人偵察機「スキャンイーグル」が登場したり・・・・と、“その時、海上で何が起きたか”をかなり忠実に再現しているのだそう。だからこそ、か?大スター、トム・ハンクス主演のハリウッド大作!というイメージで挑むと意外に「?」な感じかもしれない。中盤、海軍特殊部隊ネイビーシールズのハイテク(であろう)軍艦までも数隻登場し、更には闇夜の空からも極秘に軍隊が飛行機から飛び降りてくるなどして派手な展開になってくるんだけど、そっからがまたなかなか進展せず・・・・思わず要領悪っ!と思いヤキモキして仕方がなかった。だって、ハリウッドのアクション映画を見慣れている僕にしてみれば、まずネイビー艦隊が出てきた時点でそれにスティーヴン・セガールが乗ってて海賊は一撃でやられるだろうし、飛行機から兵士が飛んできたら「出た!ヴィン・ディーゼル!」で、もう終わりだ。ま、現実にはそう簡単にはいかない、ということで。あと、フィリップスは乗組員の代わりに自ら人質となった~と思っていたけれど、なるほど、実際にはもっとリアル。この辺もエンターテインメントに偏ることなく事件を真摯に描こうとするグリーングラスの思いなのだろうな。本作は正しく「正統派」の伝記映画だと思う。それも超一級の。

 ソマリア人海賊についても、ただただ“悪”として描かれるのではなく、国の抱える問題や育った環境など非常に複雑な背景までも漂わせて描かれているところが凄い。グリーングラス監督が「最も危険なことは、生きる目的の無い若者に銃を与えることだ」と言っている通り、その怖さと、死を覚悟した相手との戦いの恐怖が極度の緊張感を持って描かれているので、手に汗握るどころか思わず呼吸をするのさえも忘れ息苦しくなるほどだ。キャプテン・フィリップスと海賊のリーダーとの「リーダー対決」も1つの“裏”見どころ。例えば、海賊のリーダーの立場で観るとまた全く違った物語が見えてくるのかもしれない。

 オーディションで選ばれたという、海賊を演じる若者たちも凄いけれど、やっぱり主演トム・ハンクスのラスト5分の演技がとにかく凄い!(案の定、世界中の批評家から今までのトム・ハンクスの演技の中で最高!と大絶賛されているようだ)ネタバレになるから敢えて書けないけど、もう・・・・そうだよな、だと思います、という(笑)。見ているこっちの感情まで揺さぶられ、一気に涙を誘う5分間。キャプテンらしい“頼もしさ”や“強さ”も一流だけど、ただ強いだけじゃなく、“絶望感”や“怖さ”そして人間の“弱さ”なんかも究極に表現する、トム・ハンクスってこんなに凄い俳優だったんだと改めて痛感させられたほど。正直、今までトム・ハンクスは全然好きな俳優じゃなく、どころか『フォレスト・ガンプ』(94年)のイメージが強かった為か?どうにも“優等生”的な感じが苦手で・・・・「はいはい、あなたは良い人ですよね」みたいな(笑)。それに、小太りで顔も全然カッコよくないし。が、この映画を機に僕は一気に大ファンになったかも。ただ、「善良な役」ばかり選んで出ている感じが引っかかるのも事実。メッチャ悪人を演じるトム・ハンクスってのも見てみたい・・・・それはそれで凄い説得力があって怖いと思うだが。

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