白ゆき姫殺人事件

 僕は昔から映画でも本でも「群像劇」というスタイルの作品が大好きで、映画だとロバート・アルトマン監督の『ショート・カッツ』(93年)がその最高傑作だと思っている。レイモンド・カーヴァーの複数の短編を原作に再構築された3時間を超える超大作だ。周りの映画ファンに全力で薦めたいのだけど、なにせ長いし、そもそもレンタルが無い(もしもレンタルショップで見つけたら迷わず借りて欲しい!)かと言って、DVDを買ってまで観てくれとは言えないし・・・・。一見、全く接点の無い人々の何気ない日常を描きつつ、次第にそれが重なってくる物語のカタルシスは凄い。特定の誰かが主人公ではなく、それぞれが主人公の物語で紡がれている1つの壮大な物語。因みに、ココCROWDで毎月やっている映画対談コーナー「Short cut」という命名はこの映画からだ(登場人物全員が主人公、という思いから)。で、本だと貫井徳郎の「乱反射」だろう。車庫入れの出来ないOLや腰痛で愛犬のフンの始末ができないおっさん、極度の潔癖症でいつも白手袋を着けて生活している新婚夫・・・・などなど総勢10人以上の人々の滑稽な生活を描きつつ、一見彼(彼女)らと全く接点の無い2歳児の事故死に実はみんな少しずつ責任があった、という物語。それぞれ何の繋がりも無い人々の生活が面白おかしく淡々と描かれる前半部から、それら全てが繋がっていく後半の展開が凄い。笑い話のようなバカバカしい人々が描かれているのに、読みながら何故か頭の中では“Aimee Mann”の「Save Me」が流れてしまうという・・・・そう、例えばポール・トーマス・アンダーソンがこの原作を映画化したらきっと『マグノリア』(99年)みたいな映画になると思うのだ。読後の切なすぎる悲哀感はハンパない。

 人里離れた山中で全身をメッタ刺しにされた上、焼死体となって発見された美人OL典子。そしてその日を境に消息を絶った同僚の美姫。当然の如く美姫は容疑者となり、テレビディレクター(原作では週刊誌のフリーライター)の赤星は彼女の周りを取材して廻ることに。彼女は何故、惨殺されなければいけなかったのか?次第に明らかになる彼女の人間関係・・・・そして、その真相は?!という物語。原作は“湊かなえ”の同名小説だ。大ヒットした『告白』(10年)、そして「往復書簡」に収録された短編の映画化である『北のカナリアたち』(12年)に次ぐ、3作目の映画化となる。“湊かなえ”の作風は先述した「群像劇」というスタイルが多く、全作読んでいるほど大好きな著者なのだけど・・・・。

 前にも幾度と無く書いたけど、僕は映画も本も大好きなので、既に読んだ本の映画化はなるだけ観ないようにしている。そして、その逆もまた然り。「ココはそうじゃないだろ?」とか「このキャラはこいつじゃないだろ?」とか「コレじゃ台無しじゃん!」とか、もう文句ばっかり言ってしまうから(笑)。勿論、活字と映画は全く別物のメディアだとは分かっているし、それぞれ別の楽しみ方があるのは充分承知だ。両方とも大好きだからこそイヤなのだ、粗探しするように文句ばっかり言ってしまう自分が。だから、なるだけ観ないようにしていたのだけど、本作はどうにも気になって仕方なかった。“湊かなえ”が大好きな僕にとっては本作「白ゆき姫殺人事件」は全く“イマイチ”な本だったから、何故に映画化までされるのか不思議で・・・・「花の鎖」や「贖罪」、「夜行列車」とかもっと他に映画化に適した傑作があるじゃないか、と。物語というか事件自体も特に意外性も無く、今の時代、現実の方がもっとフィクションぽい事件が起こっていると思うほど。物語は予想外に奥深くなることもなくあっけなく終わり、何だか取り残されたような読後感・・・・と思いきや更にその後、ネット上でのSNSの会話や、週刊誌の記事などが数ページに渡り続き、終了。「変わった本だなぁ~・・・・」というのが正直な感想だった。

 なるほど。そういうことか。原作も映画も「事件に関係しているのではないか?」「被害者を知っているのではないか?」「容疑者と何か接点があるのではないか?」という人々にインタビューをしていく“赤星”の一方的な視点から描かれているのだけど、なるほど~、コレは怖い!もしも、テレビや週刊誌等の作り手が自分の欲しい情報だけをまとめて誇張し、そうじゃない意見や情報をバッサリ切ってしまったらどうなるだろう?話した人間は決して嘘をついたワケじゃなくとも、恐ろしく偏った既成事実が出来上がってしまうのではないか?・・・・そうか、だから事件そのものは敢えて単純なものにしてあるのだろう。人々の話が、そしてマスコミやメディアの情報がいかに“事実”と違った方向に話を持って行く危険性があるか?いかに“本質”と異なったイメージを作り上げてしまうか?もっと言えば、僕らは聞き手として日常的にそういった状況に置かれているのだと思うと心底ゾッとする。情報を鵜呑みにするのではなく、常に真実を見極める目を持たなければいけない、という教訓と同時に、でもどうやって見極めればいいのだ?という現代社会への不安も抱かせる本作。個人的には、珍しく原作より映画の方が面白いと思った作品だった。原作超え、というよりもコレはきっと映像作品の方が巧く伝わる物語なのだと思う。

 監督は中村義洋。『ゴールデンスランバー』(09年)や『フィッシュストーリー』(09年)『ポテチ』(12年)『アヒルと鴨のコインロッカー』(06年)といった伊坂幸太郎の傑作を、映像としてもしっかり成功させる稀有な監督だけあって流石だ。貫井徳郎の「乱反射」を映画化してくれないだろうか・・・・。

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