チョコレートドーナツ

ゲイバーでダンサーとして働いているルディは、家賃も払えず“その日暮らし”のような生活をおくっていた。そんなある日、ゲイバーに客としてやってきたゲイの弁護士ポールと互いにひと目で惹かれ合いゲイカップルに・・・・。その夜、ルディは母親に育児放棄されているダウン症の15歳の少年マルコと出会う。彼らはルディのアパートの隣人なのだ。この“運命の一晩”が彼らとその周りの人々を大きく変えていくことに・・・・。その後、マルコの母親が薬物で逮捕され、独りぼっちになったマルコをルディとポールが引き取って家族として3人で幸せに暮らしていくのだが・・・・というのが本作『チョコレート・ドーナツ』の大体の粗筋。

正直、このプロットを聞いただけでは僕は絶対に観なかっただろうと思う。誤解を恐れずに敢えて言うならば「ゲイと障害者の映画」には全く興味が無いし、観たいとは思わないから(勿論“ゲイ”や“障害者”に対して偏見等があるワケではないってことは言うまでもなく)。しかし、本作がやたらとネット上や雑誌等で評判が良かったので気になってしょうがなかったのだ。「評判が良い」というのも通り越し「大絶賛の嵐!」って感じだろうか?数年に1本くらい、ミニシアター系の中からこういう凄い映画が出てくるんだよなぁ~・・・・だから僕ら映画ファンは、隠れた名作を見逃したくないがために全国ロードショー以外の映画にもアンテナを張ってとにかく自分の目で見まくるしかないのだ。

随分昔の話。男だけ数人での飲み会の・・・・多分3次会くらいだっただろうか?その店はたまたま僕らグループと女子数人グループのみで。その女子グループとごく自然な流れで“合同”の飲み会となり、僕はただその場の雰囲気を盛り上げようと「自分はゲイだ」と偽り、周りの男友達も僕に話を合わせてワイワイやっていたのだが・・・・いつの間に店に居たのか?2人組の男に突然、後ろから襟首を掴まれイスごと倒された。で、「お前は違うだろ?バカにするな!」というようなことを涙目で言われたのだ。何が何だか全く分からなかったけど、とにかく相当に怒っているのだけは伝わってくる。なにせこっちは5~6人いるワケで、もしもケンカにでもなれば相手には絶対に勝ち目は無いだろうに、たった2人(正確にはそのうち1人)で本気で挑んできたのだから。もう、その覚悟だけで圧倒されてしまったワケで・・・・。彼らはきっと正真正銘のゲイだったのだろうと気が付いたのは、彼らが、倒れたままポカンとしている僕を横目にそのまま店を出て行ってしまった随分後のことだった。今思い出しても後味の悪い思い出である。僕はゲイに対する偏見など全く持っていないつもりだったけれど、あの時、僕は彼らを傷付けてしまったのだろう。彼らを侮辱し、からかったのだろう。全くそんなつもりはなかったのに。

本作の舞台は70年代のアメリカ。ブルックリンで実際に起こった物語なのだそう。70年代のアメリカと言えば、同性婚どころか“ゲイ”がまだ社会から全力で拒否られている時代背景なので、この映画を観て抱く“今の僕ら”の感性よりももっと数倍、数十倍も過酷だったはずだろう、と思う。マルコの授業参観で涙したりと、共に家族として幸せに暮らしていたルディとポールだったが、彼らが同性愛者だと世間に知られたことでマルコは強制的に取り上げられ施設に入れられてしまい、更にはポールは仕事までもクビに・・・・何なのだコレは?!全く持って“差別”ではないか!ゲイカップルだと子供も育ててはいけないのか?ゲイだと仕事もクビになるのか?法律の壁と世間の偏見は見返りを求めない純粋な愛すらも受け入れてくれないのか?・・・・なるほど、この映画は“愛”についての物語なのだ。よくある“男女の愛”でもなければ“家族愛”でもない、ただただ純粋な“愛”についての物語。全編を通してひたすら哀しく切ない物語なのにも関わらず、見終わった後は3人の笑顔しか思い出さないってのが不思議である。衝撃的なラストを迎えても尚、笑顔しか思い出さない。マルコがいつも「ハッピーエンドの話を聞かせてくれ」と言っていたからか。

あと、特筆すべきは何と言ってもルディ役のアラン・カミング!ダスティン・ホフマンの若い頃かロバート・ダウニー・Jrにそっくりなおっさんがゲイバーで踊っている冒頭のシーンでは思わず苦笑いしてしまったけど、段々と彼がキュートに見えてくるから不思議(笑)。でも、いくらゲイに偏見が無いとは言っても、男同士の絡みのシーンは流石に引くわなぁ~・・・・いや、コレは“偏見”とは違うだろう?とにかく彼の演技・存在感が凄い!・・・・と思ったら、実生活でも同性婚をしてるモノホンの“ゲイ”なのだそう・・・・なるほど。そう聞くと、彼が演技を超えていたような瞬間にも納得がいく。ダウン症であるマルコをひと目見た時から何故にあれだけの愛情を注ぎ続けたのか?「どれだけ世間からの偏見の目に傷付いてきたか?周りに理解されず、どれだけ独りぼっちで生きてきたか?私には分かるよ、もう大丈夫だよ」と、そういうセリフは無かったけれど、きっとそういうことなのだと思う。そういう目をしていたように思う。加えて最後に、本作は70年代のファッション(髪型や服装、車など)も最高に素晴らしいので要チェックだ。本作の見所の1つでもあると思うので、その辺も抑えて見るとまた面白さが増すはず。前にも幾度と無くココで書いたけれど、僕は個人的に60~70年代のファッションが大好きで(自分ではそういう格好はしないけれど)特に本作のような、さり気なくも拘って再現された映画(映像)を見るのがたまらなく好きなのだ(特に、家族の寝静まった夜中にビールを片手に独りで眺める映像としては最高!)。中でも『アクロス・ザ・ユニバース』(07年)『ヘルプ』(11年)『ボビー』(06年)などもオススメ!・・・・と話が逸れてしまったが、本当に数年に1本!というレベルの名作。是非とも見逃さないで欲しい。ココ鹿児島ではテンパラのみの上映だ。

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