まほろ駅前狂騒曲

 まほろ駅前で“多田便利軒”という便利屋を営んでいる多田啓介はある日、仕事中に学生時代の同級生である行天晴彦に十数年ぶりに再会する。「一晩だけ泊めてくれ」という行天に対し、なんだか嫌な予感を感じるも学生時代に誤って彼の指を切断してしまった過去のある多田は断りきれずに承諾・・・・以来、多田便利軒の事務所兼住居でおかしな共同生活をするようになった30代半ば(共にバツイチ)の2人の物語という、もうこの時点である意味「設定勝ち」って感じだろう。2人の友情や男女関係(恋愛)などが青臭くも甘酸っぱくもなく歳相応に実に奥が深いのだ。この辺が最近の流行りモノとは決定的に一線を画すポイントだと思う。更には2人が共同生活をしながら“便利屋”を営んでいるってのも面白い。探偵事務所とか刑事の2人組とかではこうはいかないだろうから。犬の散歩とか庭の掃除などなど・・・・便利屋に持ち込まれるのが一見他愛もない“小さな仕事”という点がポイントだ。なのだけどそれが段々と面倒な事態に・・・・更には事件にまで発展していく過程が何とも痛快!もしくは、“事件”にまでは発展しなくとも個人レベルの問題としては大事件であり、それを意図せず解決していく多田と行天のコンビが最高に魅力的なのだなぁ〜・・・・。

 第135回直木三十五賞を受賞し大いに話題となった“三浦しをん”の「まほろ駅前多田便利軒」(06年)は大森立嗣監督により11年に映画化され、これまた大ヒットを記録!原作の圧倒的な面白さに加え、主演の多田啓介役に“瑛太”、それに行天春彦役に“松田龍平”という意外にも超魅力的なキャスト陣により「まほろ駅前〜」の独特の世界観に更に個性的な深みが増したことが大ヒットの要因だろう。原作ファンにとっても期待を裏切らないどころか、きっとそれ以上のキャストだったはず。多田(瑛太)と行天(松田龍平)の二人が何も喋らずただ画面に写っているだけでグッと惹き込まれてしまうほどの圧倒的存在感!瑛太のダサ格好良い魅力も勿論だけど、個人的には特に“松田龍平”がツボであった。「太陽にほえろ!」(79年〜86年)の“ジーパン”はじめ、中村雅俊との刑事コンビを描いた「俺たちの勲章」(79年)に「探偵物語」(79年〜80年)という今や伝説級のテレビドラマから、映画では76年の『暴力教室』、後に長渕剛主演のドラマにもなった『家族ゲーム』(83年)、そしてリドリー・スコットの『ブラック・レイン』(89年10月公開)で監督に絶賛され、遂に日本人からハリウッドデビュー!・・・・かと思いきや、実は周りに癌を隠しながら撮影に挑み同年11月に死去してしまうという・・・・。正に日本映画界のレジェンドと云える松田優作(ココ鹿児島でのドラマ撮影中に暴行事件で逮捕された過去もあるので鹿児島県民にとっては特に思い入れがあるのではないだろうか?)の息子である松田龍平!ショーンやジュリアンみたく「ホントにレジェンドの子供だと自覚してる?」と言いたくなるその佇まいに、正直僕にとっては物凄く“残念な人”だったのだけど、本作で「おぉ〜!間違いなく松田優作の息子だ!」と感慨深く実感することになった(どうせココまでやるのであれば、例のシーンで「なんじゃ、こりゃぁ〜!!!」と言って欲しかったけど・・・笑)。

 一作目の映画化に続き、09年に発刊された続編「まほろ駅前番外地」も13年にテレビドラマ化。主要キャストもほぼ映画と同じ俳優で構成され、こちらも好視聴率を記録したに違いない・・・・のだけど、僕は実はこれらは未だ観ていなくて、シリーズ三作目である同名小説の映画化となる本作『まほろ駅前狂騒曲』が初観だった。原作は全部読んでいて大好きだったのだけど、ちょうど同時期に発刊されていた小路幸也の「東京バンドワゴン」シリーズ(06年〜)の方にハマってしまい、何となく作風とか展開が似ていた(ように思う)「まほろ駅前〜」の方には強く惹かれなかったのだ。(「東京バンドワゴン」もテレビドラマ化されているそうだが、こっちも観てはいないのだけど・・・・)どちらも、一癖も二癖もある登場人物がいて、日常の中に何気なく起こるちょっとした謎が原因で膨らんでいく展開が魅力的な物語だ。

 二人の共同生活が始まって3年目の正月。多田便利軒に「娘を預かってください」との仕事依頼が入る。それは行天の実の娘である“はるちゃん”なのだけど、依頼を引き受けた事を行天に言えない多田・・・・。ちょうどその頃、町では無農薬野菜を売りにする「HHFA」(元・新興宗教団体)といういかにも怪しげな団体が活動し始め、そこにヤクザも関わり今まで謎に包まれていた行天の過去が明らかになっていく・・・・。そんなある日、行天は預かっていた娘と、更には「HHFA」のリーダーと共にバスジャック事件にあってしまい・・・・という、相変わらず突拍子もない角度から事件に巻き込まれていく多田便利軒。とにかく物語がメチャクチャ面白い。映画も勿論だけど、もしも未だ原作を読んでいない方はこの機会にそちらも是非。

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