バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)

 ナールズ・バークレイの名曲「Crazy」をバックにくたびれた風貌のマイケル・キートンが舞台に向かう予告編が最高にクールで、初めて劇場で観た時は鳥肌が立ったほどだった。しかも途中で突然空からミサイルが落ちてきたり、巨大な怪獣が出てきたりして一体どんな映画なのか全然分からないし(笑)イヤでも期待値を上げられるやたらとカッコ良い予告編ってのは、その本編にガッカリさせられることも多いのだけど、本作『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』はこちらの期待値の更にずっと上を行く、最高にカッコ良くてお洒落で物凄く面白い映画だった。こんなに夢中になって観たのは久しぶりってなくらいに。かつて「バードマン」というハリウッド映画で一世を風靡し、莫大な名声&金を手にしたリーガン・トムソン。が、それ以降はヒット作に恵まれず20年以上が過ぎ・・・・手にした大金をすっかり使い果たした彼は自身の人生を懸けて世界最高峰であるニューヨークのブロードウェイで企画・演出・主演という大舞台を企て復帰を試みるのだが・・・・という物語。

 89年と92年のティム・バートン版『バットマン』シリーズで「ブルース・ウェイン=バットマン」の主演を演じたマイケル・キートンが、かつて一斉を風靡した「バードマン=リーガン・トムソン」を演じるという、このキャスティングが素晴らしく絶妙だ。実際に彼は「バットマン」以降、『カーズ』(06年)『トイ・ストーリー3』(10年)とかピクサー映画の声優でくらいしか最近はその名前を見ることはなかったので・・・・。劇中の「バードマン」と同じく、かつての「バットマン」から20年以上が経っているマイケル・キートンの演技・セリフはまるで地をいっているようで深い。で、主役がコレだけ熱いので脇を固める俳優もかなりの個性派を持ってこないといけないだろう、ってな感じの共演陣も豪華だ。『アメイジング・スパイダーマン』シリーズ(12年~)のヒロイン役で大ブレイクしたエマ・ストーン(11年の『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』の方がずっと魅力的だったけど)と、“世界一キレイなお姉さん”(だと個人的には思っている)のナオミ・ワッツに加え、何と言ってもエドワード・ノートン!随分久しぶりに見た気がするけど相変わらずカッコ良い~!巧い~!本作のマイク役は物凄いハマり役だと思う。レイモンド・カーヴァーの短編小説「愛について語るときに我々の語ること」を元ネタに脚色するリーガンに対し、「何故に今、レイモンド・カーヴァー?」という、我々観客の誰も思ったはずである疑問をエドワード・ノートン扮するマイクが思い切り代弁してくれるから気持ちがいい。映画のタイトルが『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』ってのが、インディ感満載で「一体、誰がこの邦題を付けたのだ?」と憤りすら覚えていたのだけど、なるほど・・・・このレイモンド・カーヴァーに因んだ原題を訳しただけなのだな。

 セリフもシーンも全てがいちいち素晴らしいこの大傑作を撮ったのはメキシコの監督アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ。00年のデビュー作『アモーレス・ペロス』が(メキシコ映画でスペイン語にも関わらず)世界中で高評価を得て一躍有名になり、ショーン・ペン、ナオミ・ワッツ、ベニチオ・デル・トロの超豪華共演作『21グラム』(03年)でハリウッドデビューするのだが、コレがまたとんでもない映画で・・・・(人が死んだ時に軽くなる体重、いわゆる“魂”の重さが「21グラム」なのだそう)、更にはブラッド・ピット&ケイト・ブランシェットと菊地凛子&役所広司を共演させたことでココ日本でも大いに支持を得たであろう『バベル』(06年)ではカンヌでの監督賞他、世界中の映画賞を数多く受賞。デビューからわずか6年ですっかり“巨匠”と云われる域に達した大御所だ。

 で、本作『バードマン~』の最大の魅力は、まるで最初から最後までワンカットで撮ったような全編連続の映像。コレは本当に凄い。TVドラマ『ER』の第4シーズン第一話「待ちぶせ」を思い出させるワンカット映像(っていうか、改めて思うと、あの45分間のドラマを生放送でのワンカットで行った『ER』はやっぱり相当に凄いのではないだろうか?しかも、西海岸と東海岸での放送時間の時差を考慮して同じ演技を二回やっているのだから)。この映像を撮ったのが、やはりメキシコ出身のエマニュエル・ルベツキ。去年の『ゼロ・グラビティ』に続き今回の『バードマン~』で2年連続の「アカデミー撮影賞」を受賞した今、彼こそが正真正銘“世界一の映像作家”なので覚えていた方がいいだろう。次作が楽しみだ。今年のアカデミー賞で作品賞、監督賞、脚本賞、撮影賞、と主要4部門を独占し、全世界では総計でなんと185もの賞を受賞している『バードマン』。早くも「今年最高の一本」と謳われているが、間違いなくその通りだと思う。これほど“映画力”を持った作品はなかなか無い。

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