ヴィンセントが教えてくれたこと

 僕は宗教には全く関心がなく“信仰心”など微塵もないのだけど、神様というかご先祖様というか、何か自分を守ってくれるような存在はメチャクチャ信じている。なんて自分勝手で理不尽な人間なのだろうと自分でも自覚しているのだけど。最初にその存在を感じたのは小学校の3~4年生の頃だったか。音楽の授業の時、今日が笛のテストだということをすっかり忘れていた僕は課題曲が全く吹けなくて、ただただこのピンチをどう切り抜けるか?だけをずっと考えながら「神様、次回は絶対に練習してきます!今日は許して下さい!」と多分82回くらい心の中で叫んでいたと思う。あいうえお順に、順調に、至って順調に進んでいく笛のテストは遂に小林くんにまで進み・・・・次はいよいよ“サカモト”である僕の番!と、その時、授業終了のチャイム。それから僕は困ったときにはいつだって神頼みだ。この悪いクセは大人になってからもずっと続いていて、普段は全く無信仰なくせに、壁にぶつかった時だけ心の中で「神様、お願いします。」、会社の売上が悪い時はいつもの稲荷神社に行って「お願いします。頑張ります」と。流石にコレではダメだろうと会社に神棚を入れてもらったのはまだ去年のことで・・・・。親父が死んで自宅に仏壇を設置してからそういった思いが増してきたようにも思う。子供たちをお寺の幼稚園(お経が読めるようになる)に通わせたのも、傍から見たら「それを信仰心というのだよ」と言われるのかもしれないが、やっぱり僕は「宗教」というものには抵抗があるのだ。正直に言うと。

 もう20年くらい前の曲だけど、ジョン・オズボーンの「one of us」がやたらと心に沁みる(曲を書いたのは“フーターズ”のエリック・バジリアンかロブ・ハイマンだったかと思うけど)。家族や仕事・友人など大切な守るべき者の存在が増え、それが大きくなるに連れ年々“好き度”が増してくる稀有な一曲だ。「世界がぐらつき、聖人たちは痛みに震えて泣いている。そして神様が天国から飛行機に乗ってやってくる」というゴスペルソングの一節から始まるこの名曲は、その歌詞が神を冒涜していると問題になり賛否両論を巻き起こしていたけれど、当時20歳そこそこの僕には「いかにもキリスト教らしい紛争だな」と全然ピンときてなかった。今ならば、コレはキリスト教、もっと言えば宗教の歌なんかでは全然無いことはよく分かるのだけど。

もしも神に名前をつけるとしたら
どんな名前になるのだろう
そして彼と対面できたとしたら
面と向かって一つだけ質問を許されるのならば
何を聞こうか

もしも神に顔があったなら
どんな顔をしているのだろう
あなたはその顔を見てみたい?
見ることで、天国やら奇跡やら聖者の予言やら
それら全部を信じなければいけないとしても

もしも神が私たちと変わらなかったらどうする?
私たちと変わらない怠け者のようだったら?
家路に向かうためバスに乗っている見知らぬ人のようだったら

一人、天国へ帰っている途中
神は誰からも電話がかかってこない
https://www.youtube.com/watch?v=LW99kg_deXI

 大好きなビル・マーレイが主演じゃなければ絶対に観に行かなかったであろう『ヴィンセントが教えてくれたこと』。一番嫌いなパターンの邦題だ。誰がこんな邦題を決めるのかは知らないけれど、この邦題のせいでどれだけの見込み客を逃しているか分かっているのだろうか?しかし、この手の“ぬるい”タイトルが好きな人もたくさんいるから決定したのだろうけど。原題は「St.VINCENT」。でも、本作は決して宗教絡みの映画ではないし、ヴィンセント=ビル・マーレイは全く“Saint=聖徒”なんかではない。どころか、アル中でギャンブル狂、更には妊娠中のストリップ嬢を週間契約しているメチャクチャな男だ。彼の家の隣にワケ有りで引っ越してきた小学生の男の子をひょんな事から預かることになり・・・・ま、細かくストーリーを書くまでもないほどベタな物語だと言えばその通りなのだけど、コレがとんでもなく良い映画なのだ。映画の序盤、子供がカトリックの学校に転校してきて開口一番「僕、多分ユダヤなんだけど・・・・」すると「私もよ!」を筆頭に「自分は◯◯だ」とか終いには「そもそも神様なんていない」という子まで。このシーンと、無信仰でハチャメチャなヴィンセントが隣人の男の子から声を掛けられ、子供が苦手なヴィンセントは思わず「くそ!神様、頼むぜ・・・・」とつぶやくシーン。この冒頭の二つの場面が物語の方向性をバシッと定めているように思う。タイトルこそ「St.VINCENT」だけど、この映画は宗教の話しではありません、と。“聖徒”とはいっても我々と同じ“人間”なのだ。しょせん、人なのだ、と。

 ビル・マーレイが好きと言いながらも「何に出てた人?」と訊かれれば『ゴースト・バスターズ』と『ロスト・イン・トランスレーション』くらいしか咄嗟に思い浮かばないけど(あ!あと『ゾンビランド』!笑)、やっぱこの人、大好きだなぁ~・・・・凄くカッコ良い歳の取り方をしている。ビル・マーレイ史上一番のハマり役である本作『ヴィンセントが教えてくれたこと』は、今のところ個人的に今年一番の映画となった。ココ鹿児島ではテンパラのみの上映。絶対オススメです。

一番上にもどる      ホームヘもどる