心が叫びたがってるんだ。

 小学生の子供たちが口ずさんでいる音楽がなんだか遠い昔にどこかで聴いたことがあるような気がして「それ何の歌?」と訊いてみると「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない・・・・」と答えるので、てっきりふざけているのだと思い心の中で「何言ってんだ、面倒くせえなぁ・・・・」とそれきりにしたのだけど、後日よくよく聞いてみると、最近子供たちが Hulu でハマっているアニメのタイトルでそれのエンディング曲なのだという。なんて長い名前のアニメなのだ。タイトルというか、もう“文章”じゃないか。他にも「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」とか「異能バトルは日常系のなかで」、「戦姫絶唱シンフォギアGX」とかあるそうで、この長ったらしいタイトルは最近の流行りなのだろうか。オレらの頃は「ガンダム」とか「タッチ」とか、一発で覚えられるものばかりだったのに、何とも面倒くさい時代になったものだ・・・・コレを覚えなきゃいけない今の子供たちが何だかかわいそうにも思えてくる。で、全11話のアニメを観終わった子供たちが、その続きである「劇場版」をどうしても観たいというので、DVDを借りてきて何気に一緒に観ていたのだけど・・・・いやぁ〜、コレがまたとんでもなく泣けて仕方がなかった。アニメでこんなに泣けたのは何以来だろうか?で、ラストの「もういいよ!」・・・・ふと気が付くと子供たちはみんなTVではなく僕を見ていたのでビックリした。確かにバカみたいに泣いていたのだと思う。あ、そうだ!この曲は確か、ZONEの「secret base〜君がくれたもの〜」だ。

 明るくて夢見がちな“成瀬順”はお喋りが大好きな女の子。小学生の彼女はある日、お城(ラブホ)から出てくるお父さんを偶然に目撃し「お父さんは実はお王子様だった!」と意気揚々とお母さんに話す。「お姫様はお母さんじゃなかったけど・・・・」と。それが原因で両親は離婚。その際、母親からは「それ以上喋らないで」と、父親からは「お前は本当にお喋りだな。全部お前のお喋りのせいだ」と言われ自己嫌悪に陥ってしまう・・・・この冒頭のシーンで我々観客はガツンと物語に惹き込まれてしまうのだ。若干ネタバレになってしまったが、これくらいは本作の“感動度”には全く影響しないので勘弁して頂きたい。「言っても、アニメでしょ?」という大人な映画ファンに向けては、むしろこんなところから物語は入っていく〜っていう情報がとても重要だと思うから。彼女はその時に「全てはお前のせいだ!」という“玉子の妖精”に出会い、口にチャックを閉められ喋れなくなってしまうのだ。喋るとお腹が痛くなるという・・・・。そして、高校生になった彼女が本作の主人公。同じく両親が離婚しながらもそれをきっかけに今は祖父母の家に住みつつ、明るく前向きに振舞っている“坂上拓実”と、その彼を当時何も助けられず、どころか傷付けてしまったと自責の念に捕らわれ続ける元カノ“仁藤菜月”、更には「甲子園も夢じゃない!」と謳われつつも肘を壊して除け者になってしまった野球部のかつてのエース“田崎大樹”。この4人が教師の指名で「地域ふれあい交流会」の委員に選ばれミュージカルをやることになるという物語。

 素晴らしい。とにかく素晴らしい。観終わってみるとこの長ったらしいタイトルも妙にすんなりくるし。「心が叫びたいんだ!」というより、「心が叫びたがってるんだ!」って言われると「何を?」となるワケだけど、コレがまた絶妙なのだなぁ〜・・・・。心が何を叫びたいのか自分でも分からないけど、とにかく叫びたいんだ!っていう、この感情こそが青春そのものではないか。『あの花』で“めんま”の声がみんなには聞こえないってのと同様、本作『ここさけ』では“順”の声は届かない、って言うか喋れない。だけど、言いたいことは山程あるのだ。山程あるのに、か。

 『キック・アス』や『キングスマン』のマシュー・ヴォーン監督が「自分の映画は50%が音楽で出来ている」と公言していて、中でも映画史に残るであろう名シーン『キングスマン』の“教会での大量殺戮”シーンは、レーナード・スキナードの名曲「フリー・バード」に合わせて映像を撮ったのだという(最初はガンズの「November Rain」のイメージだったけど、スラッシュのギターソロがイマイチで変更したのだとか)。どおりで全てのシーンがあんなに心地よくしっくりいくのだと納得。前作の『あの花』もそうだったけど、今回の『心が叫びたがってるんだ』も音楽が占める要素が相当に大きい。ま、ミュージカルをテーマにしているので(とは言っても、映画自体はミュージカルではないのでご安心を)当然と言えばそうなのだけど、まるで音楽を聴いているように心地良い映像は凄い。中でも、不動の名曲「Over the Rainbow」とビリー・ジョエルの「This Night」・・・・じゃなくてベートーベンの「悲愴」のマッシュアップは素晴らしくて、まるで、コレが先にありきの物語なのではないか?と思うほど。この、“歌でなら喋れる”女の子の小さな物語は、日本アニメの金字塔的一本になるのだろう。本当に素晴らしい。

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