グラスホッパー

 僕は“クソガキ”が大好きだ。子供の友達とかよく我が家に遊びに来たり泊まりにきたりするけれど、ヤンチャな子ほど可愛い。うちの小3になる次男は自他共に認める筋金入りの“クソガキ”で、例えば、お店とかの展示品で「よい子はさわらないでね」という貼紙を見ると「・・・・ってことは、僕はクソガキだから触っていいんですよね?」と店員さんを困らせてみたり、ドラムを習っている長男と間違われ(その写真をたまに僕がFacebookとかにUPするので)「ドラム、頑張ってるね~」と言われる度、次男は「いえ、それは僕のお兄ちゃんです。僕はなんにもしてない、ただのクソガキです」と言ってみたりと、日頃からなかなかのクソガキぶりを発揮している。勿論、度が過ぎると僕からこっぴどく叱られるワケだが、田舎に住んでいる利点として近所のおじちゃん・おばちゃんからもよく叱られるらしく、すぐに顔も覚えられ可愛がられているようだ。男の子はクソガキくらいがちょうどいい。・・・・何の話かというと、とにかく僕は最近よくテレビで観るあの“ガキ”が大嫌いなのだ。自分のことを「可愛いでしょ~」と最大限にアピールしつつ、大人に媚びを売るような発言・表現にはどうにも虫唾が走る。周りの大人(親とかTVスタッフ)の仕込みであればあまりにも本人が可哀想だし、逆にもしもアレが本人の“素”だとすればこんなに末恐ろしいことはない。っていうか、何より、それを「可愛い~!」とか騒いでいる周りの大人がダメだと思うのだ。彼は喋る犬や猫や新型ロボットなんかじゃない、人間なのだから。あんな小学生イヤだなぁ~・・・・僕は、そのガキをTVで見るたび伊坂幸太郎の「マリアビートル」の“王子”を思い出す。あと数年経って「マリアビートル」が映画化されたら、“王子”役として彼ほど適任なガキはいないだろう。例えココ一年以内に消えたとしても「マリアビートル」の映画化の頃にはまた話題にはなるだろうから・・・・ま、良かったな。

 年齢的には僕の一歳年上である伊坂幸太郎。道尾秀介、東野圭吾、村上春樹と並んで大好きな作家だ。とは言っても、僕が初めて彼の作品を読んだのは「重力ピエロ」か「アヒルと鴨のコインロッカー」の文庫本で、それが出たばかりの時だったから、調べてみると06年か。ってことはデビュー作である「オーデュボンの祈り」から6年も経っていた頃なのだと気付く。とにかくその一冊ですっかりハマってしまった僕は「オーデュボン~」から「ラッシュライフ」「陽気なギャングが地球を回す」「チルドレン」と、作品順に読んでいき辿り着いたのが「グラスホッパー」だった。それまでの作風と全然違うダーク作で、どこか日本人離れした世界観が「日本でもこれほど硬派なハードボイルド作が成り立つのか・・・しかもこんなに読みやすい形で!」と、本当に衝撃的だった。それからはもう文庫化になるのを待ちきれず「死神の精度」からは単行本で持っているくらいなので、“伊坂幸太郎ファン”を自負していいのではないかと思う。先述した「マリアビートル」は「グラスホッパー」の6年後を描いた続編となるのだけど、僕はどっちかって言うと続編である「マリア~」の方が好きな一冊であった。が、なるほど~・・・・列車の中だけで物語が展開する「マリア~」は本で読むには最高に面白かったけど、映像化には「グラスホッパー」の方が適しているのかもしれない。

 主人公は、愛する妻を轢き殺された学校教師の鈴木。妻を殺したのは闇組織会社「フロイライン」のボス“寺原”親子だと知り、復讐を果たすためにまずそのバカ息子に近づかなければと、自ら闇組織に入り潜入捜査を始める・・・・おぉ~、面白そうじゃないか!ハリウッドの王道復讐劇とフランスの“フィルム・ノワール”が合わさったような作風をイメージさせるプロット!しかも、復讐を誓う主人公が真面目な学校の教師という・・・・完璧だ。がっ!本作の本当に凄いところは、復讐の相手が本でいえばまだ10分の1辺りで死んでしまうというサプライズにある。真面目な主人公が慣れない悪事を重ねながらいよいよ復讐の相手に会えるか?って時に、そいつが目の前で車に轢かれて死んでしまうのだ。復讐を達成することを永遠に取り上げられてしまった鈴木の無念感は残るものの、物語的には「はい、終了~!撤っ収~」となるところだが、勿論そうはならない。「・・・・っていうか、今誰か背中を押したよね?」と疑問を持った鈴木は現場から離れていく一人の男の後をつけていき・・・・そこからの怒涛の展開は観てのお楽しみってことで。主人公こそ何処にでもいるような普通の男だけど、それ以外の登場人物は「自殺専門の殺し屋=鯨(くじら)」、「ナイフ使いの殺し屋=蝉(せみ)」、「車道や線路に突き飛ばして殺す“押し屋”=槿(あさがお)」、「毒殺専門の殺し屋=スズメバチ」といった曲者ばかり。この“殺し屋”同士の戦い(と、それに巻き込まれる一般人・鈴木)ってのが物語の要で、本作が「国産・本格ハードボイルド作」と云われる所以だ。

 物語が随分と端折られているのは致し方無いとしても、設定自体が結構変更されてしまっているのが原作ファンとしては正直ガッカリなところでもあった(例えば、“槿”家にフロイラインが乗り込んでくるシーンとか、鈴木夫妻のバイキングのエピソードとか、大好きなシーンがなくなっていて・・・・)。でもコレはコレでかなり面白く楽しめたので全然OK。ま、原作を元に作られた~って感じだろうか。あと、それを狙って作ったのだろうけど、全体が漫画チックになっているのも好き嫌いの分かれるところかもしれない(特に“蝉”と“岩西”、それとクライマックスの“舞台”)。僕は個人的に、原作に対してはフィルム・ノワールっぽい重たい映像をイメージしていたのであまりにも世界観が違ってて最後まで馴染めなかったが・・・・。それにしても、“鯨”役の浅野忠信と“槿”役の吉岡秀隆が最高!この二人が出てくるだけで映像がグッとしまってくるから不思議だ。原作を読んだことのない人は怒涛の展開を最高に楽しめるだろうし、原作ファンもそれとの違いを楽しみながら観れるだろう。面白かった。

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