クリード チャンプを継ぐ男

 1970年代当時、ハリウッドスターを志すもことごとくオーディションに落選し、AV男優として生計を立てていたシルベスター・スタローンがわずか3日で書き上げた『ロッキー』の脚本。それをハリウッドに売り込みに行き高く評価されるのだけど、ポール・ニューマン、アル・パチーノ、ロバート・レッドフォードとかいった大スターでの主演で進めようとしていたスタジオ側に、彼は頑なに拒否!自分が主演じゃなければ脚本は売らないという・・・・それを受け入れる条件にスタジオ側が出したのは、主演のスタローンのギャラは俳優組合が定める最低賃金で、制作費は約100万ドル(当時のテレビ番組一本分)、36万ドルだった脚本料は2万ドルに減額・・・・それらを全部のんででも主演をやりたかったのかスタローン!と言いたいが、今となってはその賭けが大成功だったことは誰もが認めるところだろう。予算を抑えるため、どうしても剥がれていくメイクを考慮して負傷したメイクから逆算して撮影していくという、要は最終ラウンドから第一ラウンドへと逆に進行して撮影したにも関わらず、完成した映画を観るとこのテンションの持って行き方は本当に素晴らしい〜!加えて、先述したその流れで監督のギャラも通常の半分だったのに快く(かどうかは分からないが)引き受けたジョン・G・アヴィルドセン監督と、ビル・コンティが手掛けた音楽(あの誰もが知っているロッキーのテーマソング!)の功績も多大で、正に奇跡の一本と言っても過言ではない気がする。

 そうして完成した歴史的名作『ロッキー』(76年)は、結局、宿敵アポロには負けてしまうというエンディングがまた素晴らしく(“勝ち負けじゃない”という精神性を描いた物語の奥深さがそれまでのスポ根ものと一線を画し)スタローン・デビュー作にしていきなり第49回アカデミー賞で作品賞・監督賞・編集賞の主要3部門を受賞!即、続編制作が決定した待望の『2』(79年)では見事アポロに勝利!・・・・勝ったのだからコレで終わればいいものを更に物語は続き『3』(82年)へ!子供にも恵まれすっかりハングリー精神を無くしてヘタレになったロッキーは世界ランキング1位のクラバー・ラング(ミスターT)と戦いあっけなくKO負け。トレーナー・ミッキーの死、その代わりにトレーナーを引き受けるアポロとの友情を経て再度クラバーへ挑む!で、ラストのロッキーとアポロのクロスカウンターで“サバイバー”の「アイ・オブ・ザ・タイガー」・・・・公にもコレが完結編と云われ公開されていたので大喝采のうちに幕を閉じるか〜と思いきや、「ロッキー神話」を(予算的にもスケール的にも)更なるレベルに持っていった『4』(85年)が公開!ソ連のヘビー級チャンピオンとの死闘でアポロが死に、その敵を討つためロッキーは単独でソ連での試合に挑むというこの映画は、作品自体のスケールも格段にデカくなり興行的にもシリーズ最大のヒットを記録!したのだけど、その年の“最低映画”を決めるゴールデンラズベリー賞で全10部門中8部門にノミネート、うち5部門で受賞!(しかも逃した他の賞は『ランボー 怒りの脱出』でほぼ制覇という・・・・笑)きっと、それまで「ドラマ映画」だったシリーズがココにきて突然「巨大エンタメ娯楽作」になったのが映画ファンには受け入れられなかったのかもしれない。ま、でも僕はこの『4』が一番好きだけど。その教訓として作られた(?)『5』(90年)は、今度こそ完結編として作られた最終章だ。「2」〜「4」はスタローンが監督だったけど、本作では1作目で監督したジョン・G・アビルドセンが復帰。現役を引退したロッキーは亡きミッキーのジムでトレーナーとして新鋭ボクサーのトミー・ガンを育てる日々。やがて思春期にさしかかった息子ロッキーJr.は、トミーにばかり気をかける父に不満を持つようになり・・・・初期の頃の「物語」を重視した人間ドラマだったのだけど、コレがまた本当に酷かった・・・・小学生の頃からもう30年以上ロッキーファンだった僕でも流石にコレは無いと思ったほど。唯一の話題は、ロッキーJr.を演じたのがスタローンの実の息子であるセイジ・スタローンだった、ということくらいだろうか。その年の(第11回)ゴールデンラズベリー賞10部門中7部門(最低作品賞、最低監督賞、最低主演男優賞、最低主演女優賞、最低助演男優賞、最低脚本賞、最低主題歌賞)を独占し、一作目の『ロッキー』でアカデミー監督賞を受賞したジョン・G・アビルドセンは同じシリーズでラズベリー監督賞も受賞するという快挙を果たすことに。で、再びスタローンがメガホンを取ったのが6作目『ロッキー・ザ・ファイナル』(06年)だ。伝説のヘビー級王者であったのはすっかり過去の栄光となり、今では地元フィラデルフィアで「エイドリアン」(妻のエイドリアンは既に死去)という名前のイタリアン・レストランを営んでいるロッキー。かつての自分の活躍を客に話して聞かせ人気者になっているというほのぼのと穏やかな日々を送っていたにも関わらず、性懲りもなくまた現役として復活する〜という展開はかなり無理があるけれど、この映画、ファンにとっては意外とウケが良かったんじゃないだろうか?、ま、前作から16年も経っていて再び「ロッキー」が観れるなんて誰も思いもしていなかっただろうし、内容も回想シーンが盛り沢山で、まるで「ロッキー総集編」って感じで。誰よりもロッキーを愛してきたスタローンが前作『5』の尻拭いをするかのように自ら手掛けた、限りなくロッキー愛に満ちた一本だったと思う(原題が「ROCKY BALBOA」というフルネームのまんま、っていうのもそれが覗えるし)。

 そして、「ロッキー」シリーズ7作目となる最新作がこの『クリード』だ。11月25日に全米で公開され、最初の3日間で全7作中ぶっちぎりの興行成績を記録。間違いなくシリーズで最大のヒットになると云われている大傑作だ。監督は『フルートベール駅で』(14年)で一躍注目を浴びたライアン・クーグガー!・・・・誰それ?っていうか、まだこの一本しか映画を撮ったことのない29歳の新人監督なのだというから凄い。なんでも、ライアン監督は子供の頃から大の「ロッキー」ファンで、“もしもアポロに息子がいたら・・・・”という自らの案と脚本をスタローンに直々に売り込みに行ったのだという。先述した『ロッキー・ザ・ファイナル』と同じく、限りなくロッキー愛に満ちた一本じゃないか。だから我々ロッキーファンの期待を裏切るワケがないのだ。往年のファンも安心して観れるし、そうでない方も珠玉のボクシング・ドラマとして最高に楽しめるだろう。本作が同シリーズでなければただの“パクリ”に過ぎないほど、全てが徹底的にオリジナル作(第一作目)にオマージュを捧げている作風がとにかく凄い。哀愁に満ちた物語をバックにクライマックスの試合中「やっときたか〜!」というタイミングであの音楽が流れた時、一気にテンションマックス!「そうそう、ロッキーってこんな試合してたよな」と。それにしても、「スターウォーズ」と「007」と「ロッキー」の最新作が観れるという超贅沢な今冬。近年稀にみる当たり年じゃないだろうか。嬉しすぎる。

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