白鯨との闘い

 “石油”に代わるまで工業用燃料の主流であった“鯨油”を獲るために捕鯨が盛んに行われてきた19世紀後半が物語の舞台。かつて巨大な白いマッコウクジラに片足を食いちぎられた船長エイハブは、その鯨に復讐するために仲間とともにエセックス号に乗って大海原へと出航。船員たちはやがてエイハブの狂気ともいえる復讐心に感化され“白鯨=モヴィ・ディック”探しに没頭していく。数年に渡り捜索し、ようやく探し出すも死闘の末に船は沈められ乗組員の全員が死亡。ただ一人、イシュメイルだけが漂流の末に捕鯨船に救出される・・・・という、1851年に発表されたハーマン・メルヴィルの小説「白鯨」。これまで数々の映画化作があるけれど、とりわけ有名なのはジョン・ヒューストン監督&グレゴリー・ペック主演の56年『白鯨』だろう。

 と、知ったかぶって書いてみたものの実は僕は原作本を読んだこともなければ映画化作を観たこともない。もっと正直に言うと随分前に一度読んでみようと思ったことはあるのだけど、そのあまりのつまらなさに途中で断念したのだった。ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」でさえ「つまらねぇ~・・・・」と思いながらも「上・中・下巻」をなんとか読破したのに(ま、コレは上巻と中巻の途中まで頑張れば下巻は最高に面白くなってくるのでまだいいのだけど)、途中で読むのを止めてしまったのは僕にとって宮部みゆきの「ブレイブ・ストーリー」(上巻の途中で断念)と、この「白鯨」だけだ。で、本作『白鯨との闘い』があまりにも面白かったので、コレを機に屋根裏にあるダンボール箱から「上巻」を探し出して読みなおしてみようかと思ったのだけど、よくよく調べてみるとそれとはまた違うらしく・・・・。てっきり、メルヴィルの「白鯨」の何度目かになる映画作だと思っていたのだけど。そもそも、「白鯨」という小説は1819年に実際に起こった実話を基に描かれているのだそうで、その元ネタとなった“アメリカ捕鯨史上最悪の悲劇”を語ったノンフィクション「復讐する海 捕鯨船エセックス号の悲劇」(ナサニエル・フィルブック 著)という本があり、本作はそれの映画化になるのだという。少々ややこしい感じもするけれど、この辺を理解して観るとまた格段に楽しめると思う。

 「その時エセックス号で何が起こったのか?」その真実を聞き小説にするために、生存者の中で最年少だった故今ではただ一人の生き残りとなったトーマスの家に若き小説家ハーマン・メルヴィルが訪れる。「絶対に話したくない」というトラウマを抱えたトーマスがやがて少しずつ話した出した“真実”とは・・・・。物語は『タイタニック』(97年)同様「主人公の回想」という形で語られ、過去と現在を行ったり来たりするのだけど個人的にはこの展開が大好きで飽きずに楽しめた。ラスト、全ての“真実”を語ったトーマスが「本当に本にするのか?」と問うと「この話を基にオリジナルの物語を書くことにします」と答えるメルヴィル。それがアメリカ文学を代表する名作「白鯨」になったのだ。トーマスが経験した現実と苦悩を暴露するような本は書かないという、男気の奥深さが泣けるポイントでもあるので敢えてココでは一切の粗筋も書かないことにしたい。かなり重たい話ではあるのだけど、予告編で分かるように“大きな怪獣”と戦いを繰り広げるモンスター・パニック映画の要素も大きいので一緒に観に行った小学生の息子も大満足だったようだ。

 監督はロン・ハワード。第74回アカデミー賞で作品賞と監督賞をW受賞した『ビューティフル・マインド』(01年)や、当時は社会現象にまでなった『ダ・ヴィンチ・コード』(06年)が有名だろうけど、40代である僕ら世代にはやっぱり『バックドラフト』(91年)や『アポロ13』(95年)のイメージが強い監督じゃないだろうか。シリアスドラマをエンタメ作に昇華させる技術は流石だ。そして物語の核となるオーウェン・チェイスに『アベンジャーズ』シリーズ(12年~)や『マイティ・ソー』シリーズ(11年~)で“ソー”を演じたクリス・ヘムズワースが演じる。正直、今までは全然ピンときてなかったけど、いやこの人、相当格好良い。白鯨の迫力を体感するためにも是非とも映画館で観て欲しい一本だ。自宅のテレビで観てはこの面白さは間違いなく半減するだろうと思うから。劇中ずっと「どっかで見たよな~」と、若き小説家ハーマン・メルヴィルが気になって仕方なかったので劇場を出てすぐにスマホで調べてみると、なるほど、『007 スペクター』で“Q”を演じたベン・ウィショーだ。“映画”というメディアの魅力あふれる一本。とにかく面白かった。

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