リリーのすべて

 僕はよく「オススメの映画は?」とか「最近何が面白かった?」とか訊かれる。お陰さまでもう15年くらい毎月1~2本の好きな映画のコラムを書かせてもらっているので、きっと僕が「映画に詳しいだろう」と思っている前提の質問だとは察しがつく。が、気心知れた人とか同じく映画好きな人が訊いてくる分には「あの映画面白かったよ!観た?」と盛り上がれるのだけど、初対面に近い人から訊かれると「僕に会話を合わせてくれているのだろう」と思ってしまい、そうなると「そんな乱暴な質問の仕方は無いだろう?」と引いてしまうのだ。「オススメの映画は?」と訊く前にまずは自分の生い立ちから性格、好みの映画、そして“今の気分”を先に話すべきじゃないだろうか?それらを全部話してくれれば「今のあなたに一番オススメの一本」を紹介できる自信はあるのだけど・・・・。僕自身、いつもその時の気分でただ気になる映画を観漁っていく感じなので、逆に「好きな映画は?」とか「好きな俳優は?」と訊かれても咄嗟に出てこなかったりする。好きなジャンルや俳優がいないワケではないのだけど、特定のジャンルや俳優を追いかけて観ることがまずないので。強いて言うならば、昔から“監督”で映画をチョイスするくせがあるからか、作品によってビデオスルーされることの多い“監督”に関しては追いかけていったりするけれど。

 実に久しぶりに、いや、もしかしたら初めてじゃないか?というくらいに“俳優”で観た映画が『リリーのすべて』だ。性同一性障害を抱え、世界で初めて性別適合手術を試みたリリー・エルベ(エイナル・ヴェゲネル)の実話を描いた物語。まぁ正直、普通ならば絶対に観ないであろう類の映画なのだけど、とにかく気になったのがリリーを演じるエディ・レッドメイン!『博士と彼女のセオリー』(14年)でスティーヴン・ホーキング博士を演じ、去年の第87回アカデミー賞で「主演男優賞」を受賞した彼だ。実はそこそこのキャリアを積んでいたとは言え、一般的にはほぼ無名(せいぜい12年の『レ・ミゼラブル』くらいか?)の俳優だったエディ・レッドメインの“ホーキング博士”にはきっと誰もが度肝を抜かれたに違いない。しかも同年の『ジュピター』(14年)では第36回ゴールデンラズベリー賞の「最低助演男優賞」も受賞!(笑)で、次の『リリーのすべて』では実在した“性同一性障害のカリスマ”リリーを演じるというし、更には「ハリー・ポッター」の新シリーズで今年の大本命とも云える超話題作『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』でハリーに変わる新たな主人公ニュートン・スキャマンダー役が決定しているのだ。そりゃあ、気になって仕方ないだろう。加えて、リリー(エイナル)の妻ゲルダ役のアリシア・ヴィキャンデルもまた気になる女優で・・・・。彼女もエディ同様ほぼ無名のキャリアから去年の『コードネーム U.N.C.L.E』(15年)でキュートなヒロインを演じて注目を集め、そして本作『リリー~』を経て次作は、マット・デイモンが復活する「ジェイソン・ボーン」シリーズ最新作でヒロイン役が決定。間違いなく次世代を担うであろう新スター二人が共演しているのだから、それがどんな映画(内容)であろうと見逃すワケにはいかなかったのだ。因みに、今年の第88回アカデミー賞ではエディ・レッドメインが二年連続の「主演男優賞」を獲る快挙か?!と思っていたのだけど、そこはレオナルド・ディカプリオに持って行かれ・・・・たのだがしかし、なんとゲルダ役のアリシア・ヴィキャンデルが「助演女優賞」を獲得!いやぁ~、ホント素晴らしかったもの・・・・。

 細かい内容はさておき、とにかくこの二人の演技が凄いので是非とも観て欲しい。エイナル(エディ・レッドメイン)が自分の中にいる“女性=リリー”に覚醒め、徐々にその存在が大きくなっていく様、そして彼(彼女)を支え続け夢を叶えてあげようと懇親の愛を注ぐ妻ゲルダ(アリシア・ヴィキャンデル)。“リリー”を最初に受け入れたのが妻ゲルダであり、愛する夫に「自分に素直に生きて欲しい」と力を貸す。そうすることで結果、自分らの関係性まで変わってしまうことになるのに。たらい回しにされた病院からは全て“精神病”と診断され「私も夫エイナルは女性だと思う。二人とも精神病ですか?」と食って掛かる妻ゲルダ。オネエキャラが人気を博し性同一性障害というのも一般的に理解されている現代ですら、僕は「自分が性同一性障害じゃなくて良かった」と思ってしまうし、逆に言えば「じゃあ、性同一性障害の人は不幸なのか?」と問われれば、正直そう思う。ただでさえ自分らしく生きていくことがなかなか難しいのに、更にそういう障害を抱えていては大変だろうと。決して“偏見”ではないのは言うまでもないとして、今でも僕のような人間がいるくらいだから当時は相当のことだったのだろうと想像に容易い。リリーが生きていたのは、まだ1920年代初頭なのだ。全てを超越する愛に生きたリリーとゲルダ。ある意味、究極のラブストーリーと云えるのかもしれない。

 さて、話は変わるようで変わらないのだけど、エディ・レッドメインがゴールデンラズベリー賞を受賞した『ジュピター』。その監督であるウォシャウスキーは大ヒット作『マトリックス』(99年~)当時はラリー&アンディ・ウォシャウスキー兄弟だったのに、トランスジェンダー(いわゆる性同一性障害)のラリーが性転換手術をして心も身体も女性になり“ラナ&アンディ・ウォシャウスキー姉弟”に・・・・かと思えばいつの間にか弟アンディも性転換手術をし“ラナ&リリー・ウォシャウスキー姉妹”になっているではないか!いやホント、ついこないだまで弟アンディはたくましく男らしいハゲ&ヒゲヅラおっさんだったのに、いつの間に“リリー”になったのだ?!そもそも昔からその気があったのか?それすら知らなかった僕としては驚くばかりで・・・・っていうか、“リリー”?・・・・なんだか混乱してきそうだったので色々と調べてみると、ウォシャウスキー姉妹(兄弟?)は昔からリリー・エルベを崇拝していて(なんでも、トランスジェンダー界ではリリーは神のような存在なのだとか・・・・)実際に妻ゲルダが描いたリリーの肖像画も持っているのだそう。で、ちょうど『ジュピター』の撮影をしている時にエディに『リリー~』の主演が決まり、それを大喜びしたウォシャウスキー姉妹から沢山のアドバイスを貰ったのだそうだ。ウォシャウスキー姉妹の映画に出たことで「最低助演男優賞」を受賞してしまったけれど、きっとエディはそれを微塵も後悔などしていないだろう。

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