ラ・ラ・ランド

 僕はミュージカル映画ってのがどうにも苦手だ。「生で観たら凄いのだろうなぁ~」とはイメージできるから、もしかしたら舞台でのミュージカルってのは好きになれるのかもしれないけど、結局のところ観たことがないから分からない。何故苦手か?云々に関しては以前の『レ・ミゼラブル』で書いたので端折るとして、しかしこのミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』は冒頭から鳥肌モノであった。渋滞した高速道路上での長回しワンカット映像(実際にはどこかで編集しているのかもしれないが)での歌と踊り、そしてタイトル「LA LA LAND」・・・・気持ち的にはそこでもうスタンディングオベーションである。っていうか、きっとアメリカの何処かの劇場ではホントにスタンディングオベーションが起こったんじゃないかと思う。

 タイトルの「ラ・ラ・ランド」とはハリウッド(ロサンゼルス)の愛称なのだとか。そこで女優としての夢を追いかけるミア(エマ・ストーン)が、自身のジャズバーを持つことを夢見るジャズピアニストのセバスチャン(ライアン・ゴズリング)と出会う。最初の出会いは最悪だったものの、何度も偶然に出会ううちに惹かれ合う二人。そしていつしか恋に落ち、お互いの夢を応援し合うのだが、生活のために加入したセバスチャンのバンドが成功したことによりすれ違いが生まれてきて・・・・。ファッションや街並み、車や小物なんかを見る限り舞台は40年代だと思っていたのだけど、劇中、デートでジェイムス・ディーンの『理由なき反抗』(55年)を観に行くシーンがあったり、パーティで80年代満載の格好のバンドがa~haの「Take On Me」を演奏していたり、ミアの愛車がプリウスだったり、セバスチャンのバンドがKORGの最新キーボードとmacを駆使して演奏していたり、っていうかそもそも登場人物が普通にスマホ持ってるし・・・・この時代背景が分からない、というか時代に捉われない世界観が本作の魅力の一つだろう。

 ミュージカル映画なので歌と踊りが素晴らしいのは勿論として、特筆すべきは何と言っても衣装と色!画面を眺めるだけでも幸せになれるような、こんな映画はなかなか無い。衣装担当のメアリー・ゾフレスは、、30年台を舞台にした『オー・ブラザー!』(00年)や、40年台を舞台にした『バーバー』(01年)、それに西部劇の『トゥルー・グリット』(10年)など、コーエン兄弟映画の衣装を担当し、『トゥルー・グリット』では第83回アカデミー賞で「衣装デザイン賞」にノミネートされた他、40年代を舞台にした『L.A. ギャングストーリー』(13年)でも注目を浴びた人気衣装デザイナーだ(あ、そう言えば『L.A.~』にもライアン・ゴズリングとエマ・ストーンが共演してたな)。なんでも彼女は、感情を伝えるためにシーンごとに衣装を変え「色」にこだわったのだそう。夢いっぱいの若き日のミアには華やかで明るい色にあふれた衣装を着せ、少女から大人の女性に成長し落ち着いてくると衣装の彩度も落ち、成熟したラストシーンでは黒と白だけに。「色」で内面の状況を表すという、この表現力が凄い!因みに、エマとライアンは劇中50回以上も衣装替えをしたのだという。

 監督は大傑作『セッション』(14年)で一躍有名になったデミアン・チャゼル。ジャズ・ドラマーの師弟関係をスリリングに描いた濃厚なドラマから「かなり年季の入った渋い監督なのだろうな」と勝手にイメージしてしまってたけど、85年生まれの32歳でしかも本作『ラ・ラ・ランド』がまだ3作目なのだという! J.J.エイブラムス以来の久しぶりの超新星じゃないだろうか(と思ったら、エイブラムスの『10 クローバーフィールド・レーン』(16年)の脚本を彼が手掛けているようだ)。そうそう、『セッション』のテレンス・フレッチャー役で強烈な印象を残したJ.K.シモンズもレストランのオーナー役で登場。以前はサム・ライミ版『スパイダーマン』シリーズ(02年~)での新聞社編集長役で有名だったけど、最近は『セッション』の~っていう方が圧倒的だろう。ハーバード大時代に監督デビューしたデミアン・チャゼルは、当時から「ミュージカル映画を撮りたい!」と『ラ・ラ・ランド』の企画をスタジオに持ち込むも、「レ・ミゼラブル」や「シカゴ」のようにブロードウェイで何度も演じられてきた“誰もが知っている”ものではなく、無名の監督が書いたオリジナルストーリーでのそれは誰にも全く相手にされず・・・・で、自身の実力を証明するために『セッション』を撮り、本作『ラ・ラ・ランド』を実現させたというから、筋金入りの実力者なのだろうと思う。(時には大勢の人数での)歌や振り付けが要となるこの手の映画はきっと通常以上に何テイクも重ねて、その中からベストの映像を使うのだろうな、と勝手に思っていたけれど、なんと本作は緊張感とLive感を出すためにそのほとんどのシーンがほぼ1カットで撮られているのだという!(勿論、それまでには膨大なリハを繰り返してはいるのだろうけど)そのお陰でまるで生の舞台を観ているような極上のLive感は凄い。今年のアカデミー賞では98年の『タイタニック』と並び、なんと史上最多14部門でノミネート!26日発表なのでこの原稿を書いている時点ではまだ結果は分からないのだけど、まぁ、間違いなく「作品賞」と「監督賞」、「主演女優賞」、それに「衣装デザイン賞」は獲るんじゃないかと思う。

 あの時ああすれば~、あの時あの角を曲がらなければ~、あの時ああ言っておけば~・・・・誰の人生にも於ける分岐点。それは誰しも毎分毎秒ごとにあるのだけど、その中の幾つかはその後の人生を左右するくらいに重要で大きな選択だったりするのだ。「変わらないものなんて何一つないけど、変わるスピードが違ったんだな」と大好きな甲本ヒロトが歌っていたけれど、なるほど、こういうことなのだなぁ。こんなにも純粋で切ないラブストーリーをこれだけストレートに物語れるってのは、もしかしたらミュージカル映画だからこそなのかもしれない。「映画のような魔法が現実に~」とか言うけれど、本作『ラ・ラ・ランド』は正にその“魔法のような映画”だ。「本当に素晴らしい時間を過ごせた」と思える、128分全てが名シーンの大傑作。コレは絶対に劇場で観なければいけない。

一番上にもどる      ホームヘもどる