ハクソー・リッジ

 ポスターやチラシ・予告編など、どっから見てもだし、実際に本編を観ても『ハクソー・リッジ』は正真正銘ガチ目の「戦争映画」だろう。圧巻なのは戦闘シーンの異常なまでのクオリティの高さ。映画(=作り物)だと分かっていても目を背けたくなるような過酷なシーンは、名作『プライベート・ライアン』で描かれた“ノルマンディー上陸作戦”シーンをも超越していると思う。コレが(その内容とは裏腹に)本作が徹底して「戦争映画」としてとらわれる要因だ。しかしこの物語の軸にあるテーマは戦争映画のそれとは大きく異なっている。真の意味でジャンル分けをしたならば本作は「戦争映画」ではない、とも思えるくらいに。

 主人公は、信仰深いクリスチャンでありながら、国のために陸軍兵に志願した実在の人物デズモンド・ドス。「汝、殺すなかれ」というユダヤ・キリスト教の戒律に従い「絶対に武器には触れない」「誰も殺さない」という信念を主張する彼は当然のごとく上司や仲間からも責められ、終いには軍法会議にまでかけられるのだが、それでも最後までその信念を貫き通し、実際の戦場で敵味方問わず一人で75名もの命を救い続けるのである。予告編などのコピーでは「世界一の臆病者が、英雄になった理由とは・・・」とか書かれているけれど、とんでもない。包帯とモルヒネだけを持って命を救いに行く彼は、過酷な戦場に一切の武器を持たず丸腰で行くのだからその勇気は想像を絶するものではないだろうか?人間と人間が殺し合う“戦争”という現場の中で、ただひたすらに命を救い続けるという、正に“映画のように”究極に矛盾した存在である人物が実在したというのだから凄い。しかもその舞台はココ日本だ。第二次世界大戦時の激戦区で、あまりにも過酷な断崖絶壁の戦場のため「ハクソー(のこぎり)・リッジ(崖)」と呼ばれた沖縄の前田高地。日米戦なので、もしかしたら日本人が徹底して悪者になっているのではないか?と観る前は正直不安に思っていたけれど、全くそういう角度では描かれていないのも本作の一つのポイントかもしれない。思うにこれは「どちら側の戦い」ではなく、あくまで主人公デズモンド・ドスの視点で描かれているからだろう。なにせ彼は敵味方関係なく救いに行くのだから。しかしながら、ノーヘルでがむしゃらに突っ込んでくる捨て身の日本兵の姿はどこか自爆テロのようなイメージを受けたのも事実(例えば、手榴弾のピンを外し、それを握ったまま抱きついてきたり)。アメリカからみて日本人は、自身の命と刺し違えてでも倒しにくるという“特攻隊”のイメージが強いのか?それとも“ハクソー・リッジ”が本当にこういう戦いだったのか?その辺が少し気になった。

 前半は主人公デズモンド・ドスの幼少期からドロシー(後の嫁)との出会い、そして軍隊に入隊してからの日々が描かれ、後半は一転して沖縄での日米戦と、米軍撤退後に断崖の上に取り残された負傷者をひたすら救い続けるデズモンドの活躍が描かれるという、まるでスタンリー・キューブリックの『フルメタル・ジャケット』(87年)のような二部構成。これが実に分かりやすくて全体として物語の比重(バランス)が絶妙だ。その上、ひとつひとつ丁寧に紡がれる物語の中に無駄なシーンが1秒足りとも無いのだから凄い。この大傑作を生み出したのはなんと、あのメル・ギブソン!初監督作『顔のない天使』(93年)が世界的に大ヒットし、続く『ブレイブハート』(95年)ではアカデミー監督賞を受賞!一躍“名監督”として名を馳せるのだけど、メチャクチャな私生活のせい(DV問題や度重なる飲酒運転、更には警官への暴力や差別発言などなど・・・・)で、06年の『アポカリプト』を最後にすっかりハリウッドから干されてしまっていたメルギブ。本作で一気に“完全復活”か!と思うも、この『ハクソー・リッジ』は、正確には彼の生れ故郷であるオーストラリア映画であり、ハリウッド映画では無いのだな・・・(笑)とは言え、僕ら世代にとってメル・ギブソンと云えば『マッドマックス』シリーズ(79年~)と『リーサル・ウェポン』シリーズ(87年~)に尽きるので、正直「監督作」とかどうでもいいのだ。メチャクチャな私生活すら包括する、あの最高にカッコ良いアウトローキャラのメルギブが大好きなのだから(勿論、彼の問題ごとを肯定するワケではないけれど)。そんな彼をまた観てみたい!と思っていたら、正にそんなアウトローを描いた『ブラッド・ファーザー』というメルギブ主演のフランス映画が去年製作されているようだ。ネット上の情報をみる限りコレは絶対に上木原さんが好きなヤツだろうと思うのだけど、ココ日本ではビデオスルーか?出来れば劇場で観たかった・・・・

 本作を超名作に押し上げた要因として、メルギブ監督と並び、主人公のデズモンド・ドスを演じるアンドリュー・ガーフィールドの存在も大きいだろう(正直、何故だか僕個人的にはあまり好きな俳優ではないのだけど)。『アメイジング・スパイダーマン』シリーズ(12年)がまさかの途中打ち切りとなってしまい、とんだ汚名を着せられたか?と思うも、マーティン・スコセッシ監督の『沈黙―サイレンス―』と本作『ハクソー・リッジ』の二本ですっかり名誉挽回した彼だが、その両作共に「日本」「クリスチャン」というキーワードが重要になっているのは偶然だろうか?とにかく、本当に素晴らしい映画だった。絶対のオススメです。

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