はさみを握るときが勝負時
職人肌の師匠に叩き込まれた基本

「主役は自分じゃないんで──」。南さんは、話の端々で何度もそう言った。
ギターに熱中していたこともある彼は、ロックな雰囲気にも似た、否定しようのない強い存在感を持っている。でも自身の信条としては徹底した“裏方”で、これまでスタイリストとしてメディアに出ることもしてこなかった。「お客様が輝いてなんぼ、格好良くてなんぼ。それが僕らの仕事で忘れちゃいけない大切なことだと思ってます。作ったのは僕だ!といくら言っても、結果の善し悪しはお客様にしかわからないことですから」。
南さんは17歳でこの世界に入った。もう20年ほどになる。「この仕事は職人」。そう言い切る彼の仕事観に大きな影響を与えたのが、初めて勤めたサロンのオーナーだった。「とにかく怖い人でした。態度についても技術の事でもとても厳しい人。そして熱が40度あっても絶対に仕事に穴をあけない人。仕事っぷりはとにかく速くて上手い。そして黙々と仕事をするタイプの人。まさに職人でした」。技術も接客もこの師匠に叩き込まれた。特にスタイリストとしての姿勢は徹底して仕込まれた。「修業時代、師匠のカットを見るのが本当に好きでした。僕も、お客様をカットしているとき、はさみを握っているときが自分の勝負の時間だと思っています」。髪型を気に入ってもらってこそ、お客様と長く、それこそ何十年ものおつきあいができる。師匠にそう学び、それを信じてやってきた。「それに師匠には『俺を超えてなんぼだぞ』と言われてます」。

会話好きの職人もいる
新しい提案を生む南流サロンワーク

 のっけからシリアスな話になったが、こんな真剣トークは滅多にない(笑)。いつもの南さんは冗談好きの明るいキャラが売り。よく言われる外見とのギャップも逆手に使う。特に接客中はジョークも冴える(?)。そして明るい会話が“師匠越え”の肝でもある。「僕は師匠とは違うタイプ。技術やセンスなど職人としての技は、これからもどんどん磨きをかけていくつもりですが、会話によってお客様のいろんな面を引き出し、新しい提案を生み出して、師匠を超えていきたいんです」。ヘアスタイルは生活にマッチしている事が求められる。だからその人の日常を知る努力は欠かせない。スタイリストには人間力、そこから導く提案力が、今まで以上に求められていると感じている。「お客様と話をしながら拾える情報はたくさんあるんです。どんな髪を求めているか、いつものファッションはどうか、思い切って変わりたいのか。そして『ここに髪が落ちると小顔に見える』といった理屈を丁寧に説明していくこともとても重要です」。美容師も理容師もプロであり先生。お医者さんがそうであるように、しっかりした説明の上で結果を出せば客は必ず納得する。「そのためのコミュニケーションをスムーズにできるのが自分の売りだと思うんです」。くだけた会話の中から次のスタイルが生まれてくる、それが南流のサロンワークかもしれない。

ロンドンにインスパイアされた
職人の城へようこそ

 アートギャラリーのような外観のセッション。谷山エリアに点在していた3店舗を一つにまとめて2011年2月にリニューアルオープンした。「この店のオープン直前に、ヴィダルサスーンで念願のディプロマをとったんです。ロンドンでの自由時間は僅かでしたけど、甘えのない街というか、ちゃんと前向いて歩けと言ってるような空気が凄く気に入りました。その時に入ったパブの天井がどーんと高く印象的で、新店舗はそんな店にしようと思いながら帰国したんです」。美容・理容の両スペースを持つ待望の新店舗で心機一転のスタート。スタイリストとして、この地でずっと生きていく。その決意を形にしたものだった。「店は新しくなっても自分はこれまで通りのつもりでした。でも新しいお客様が数多く来店され、新店舗に対するお客様の期待や緊張を感じたせいで、いつの間にかヘアカタログなどの“ご要望”に添いすぎている、そういう状況が生まれたんです。新規客を離すまいと気負い、邪心が出てたのかもしれない。おかげで初心に戻ることができました」。すぐさま元の自分を思い出し、持っているものをストレートに出した。そこにはおもねる姿勢も、過剰な露出も、派手なパフォーマンスも必要ない。こんなスタイルはどうですか?と提案する、職人の自負があるだけだった。
「新しい髪型にしたお客様が、周りから、たとえばご主人から『今度の髪、いいね』って褒められる。それってお客様の勝利ですよね。主役は僕じゃない。お客様。もちろんそれが、職人である僕の最大の喜びでもあり、勝負どころでもありますけどね(笑)」。

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