#174 ミスティック・リバー

《前へ1|2|3次へ》 2/3ページ

クリント・イーストウッドの映画を観る、という重荷。

上木原 皆が思うイーストウッドの作品って何だろうとググってみたら、結構『許されざる者』を薦めてるよね。
アキサン 僕が高校生ぐらいになって、ようやく映画の観方や捉え方が変わってきた頃に観たのが『許されざる者』でした。
当時は深く考えなかったんだけど、今になって思うのは一体誰が「許されざる者」なのか。狼藉を働いたカウボーイなのか、保安官なのか、それともマニーなのか。カウボーイは一応、罰金と言うか、馬を酒場のオヤジに狼藉の対価として支払っているわけだし、保安官は職務を果たしただけ。じゃあマニーが許されざる者なの?・・・・って言うほど簡単な内容じゃない。でも昔は相当悪かったようですし、その過去の悪行を11年農夫やってただけで帳消しになるわけじゃないし。
坂元 『許されざる者』は映画史上「最後の西部劇」と云われているほど名作中の名作だよね。そう言えば最近、渡辺謙でリメイクもやってたけど観た?
上木原 っていうか、西部劇っていうジャンルは全くノーマークな存在で観たトキないんだよね。で、せっかくだからこの機会にイーストウッドの方を観てみたんだけどドコがどういいのか解らない・・・・。無敵のガンマンや正義感バリバリのガンマンかと思いきやそうでもない。今は馬もろくに操れなくて銃の腕もイマイチ・・・・そしてフクロにあって寝込むし。
渡辺謙の日本版は色々言われてるけどもう一回観てみようと思う。聞き慣れてないせいか山田康雄さんの声がどうしてもルパンにしか聞こえなくて・・・・次は字幕で観てみるよ。
アキサン しかし、振り返ってみるとイーストウッドの監督作品ってものすごい多いんだよね。
坂元 その中でも彼の最高傑作と云えば『ミスティック・リバー』だと思っているんです。しかもダントツで。これだけ心揺さぶられる映画もなかなか無い。
上木原 確かに、すんごいねコレ・・・・まさに「映画を観た!」って感じ。
主人公の男3人は子供の頃の事件がトラウマになる。そしてそれぞれが大人になり挨拶交わす程度の付き合いになり昔のことは消えていたある日、一人の娘の殺人事件をきっかけにトラウマが甦り3人の歯車がまた廻りはじめ悲劇に変わるって話。特にジミー役のショーン・ペンの狂気の演技!危なすぎるしホントの彼を観たかのようだった(笑)。『LIFE!』の時のショーンもかなりカッコよかったけどコレ一番彼っぽいんじゃないの?個人的にはこのペンが一番好き。革コート、メッチャ似合ってたし。『I am Sam』とか『ミルク』のショーンも大好きけど、やっぱり一癖も二癖もある役がよく似合うようなイメージだよね。
坂元 ショーン・ペン、カッコ良いよね。なんてったって、あのマドンナと結婚(85年~89年)したかと思ったら直後すぐに刑務所に入ってる(87年)からねぇ~・・・・メチャクチャでしょ(笑)。
個人的にはその真っ只中の『ロンリー・ブラッド』(86年)が最高に好きだったんだけど(レンタルとかまだあるのかな?)、それと同じくらいにガツン!ときたのがこの『ミスティック〜』だった。
上木原 コレって彼ら3人の誰に感情移入するかで随分感じ方違うと思うんだよね。
まずはジミー、僕だって愛する娘があぁなったら同じ行動に出るかもしれない。犯人捕まえて同じ目に合わせてやると。そしてショーン、彼は常に中立の立場・・・・なのだけど妻に出ていかれ苛立ちを隠せない。そしてどちらも信じてあげたい。最後にデイブ・・・・彼はホント可愛そうだった。家族がいても昔のトラウマが残っていて時折発狂したくなる。家族には出て行かれ、間違って少年の売春を自分を映し出し勘違いして殺人を犯し、そして勘違いで殺されてしまうという・・・・。
ジミーは「加害者」デイブは「被害者」ショーンは「傍観者」って感じかな?この3人に無理やり感情移入させてみたらまた面白い作品になるよ。あと崩壊の図が上手い演出で描き出されているんだよね。ジミーの娘が殺され、残された家族。娘の彼の兄妹の関係。そしてショーンとデイブと妻のギクシャクした関係。それぞれの家族崩壊が丁寧に描かれている。
アキサン でも、デイブは運が悪いというか間が悪いというか要領が悪いというか。あの時車に乗らなければ、ペドフィリアを撲殺して帰らなければ、サベッジ兄弟の車に乗らなければ・・・・てか、また車にホイホイ乗っちゃってるし。デイブ一人だけバッドエンドなんですよ。彼だけ救いがない。嫁に信頼されてないし。逆にショーンなんかハッピーエンドですよね。嫁が戻ってくるし。てか職場じゃモテてるようだし。しかも真犯人の秘密も握っちゃってる。精神的にかなりイニシアチブ取ってますよね。それ故に鑑賞後の気分が複雑なんですよ。
上木原 取調べ中のジミーの言葉が凄く気になったんだ。「ヒトラーは中絶寸前に母親が思いとどまった」って言ってたでしょ?あの時、車に乗っていたら娘は生まれなかったって。アキサンの言うとおり「あの時ああだったらこうなってはいなかったはず」誰でもそれは思うことであり受け止めなきゃいけないことでもある。あの時道路で遊んでいなければ、誰かが通りかかっていたら・・・・人の死ってたまに運命なのかなと思うこともあるよね。最後に道路でうずくまるジミーにショーンが語りかけるシーン「犯人は捕まった」。あのシーンが脳裏に焼き付いてる・・・・。
坂元 この映画もう随分前に観たのだけど、なんか「嫌な思い出」みたいに今でもたまに思い出すんだよ。何故だろう?(笑)
アキサン 総じてイーストウッド監督の映画ってカタルシスが少ないんですよね。でもそれが妙に心地良いというか、唸らされる、考えさせられる、心動かされる、そんな風に感じさせてくれる映画が多いんですよ。
坂元 確かに。
アキサン だから『ミスティック・リバー』も良い感じで後味が悪い。救いがない。でもクセになるというか、余韻が心地良いというか、お得感があるというか。「あー、面白かった!」ってだけじゃなくて色んな感情と向き合えるのが良いんですよね。
映画のポスターに「もう一つの『スタンド・バイ・ミー』を見るために、あなたは大人になった。」ってアオリ文が書いてあるんですよ。もう映画の内容ほとんど関係ないですよね(笑)。でも、きっと『スタンド・バイ・ミー』に出てくるような少年たちは世界中どこにでもいたんだと思うんです。そんな子供たちが大人になったらどうなるか?
坂元 『スタンド〜』は大人になった少年が過去を振り返るって映画だったんで、語り手は「大人」視線だったと思うのだけど・・・・。
アキサン でも『スタンド・バイ・ミー』では最後にチョロチョロっとその後の様子をモノローグで語られただけで、その内容もそれこそちょっと気になるような話だったりしたでしょ。『ミスティック・リバー』はそのアナザーストーリーみたいな感じだと。何か知らないのに懐かしくなるような不思議な気分でした。
坂元 凄い共感します。改めて両作を観たくなった(笑)。

《前へ1|2|3次へ》 2/3ページ

一番上にもどる      紹介作品一覧へ     ホームヘもどる