#198 ミスト

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文句なしのバッドエンド映画

坂元 そんなアキサンでも「もう観たくねぇな」って映画あるの?
アキサン 真っ先に思い浮かぶのは『ジョニーは戦場へ行った』とか『アレックス』、それに『[リミット]』『隣の家の少女』ですね。そう、文句なしのバッドエンドです。『ジョニーは戦場へ行った』の絶望感、これはシンドイ。夢と現実の合間に時折差し込む希望の光。観てる側はこの後に待っているのは劇的なストーリーだと信じて疑わないでしょう。悲惨な状況でも確実に少しずつ改善していってる要素があるから。なのにあのラストは中々に衝撃。逃げられない死ねない助けも呼べない。そして映画は幕を下ろす。最悪ですね。「ジョジョの奇妙な冒険」の第2部の戦闘潮流で究極生命体カーズが宇宙空間に放逐されて、帰ることも出来ず、不死故に死ぬことも出来ず、最終的に「考えるのをやめた」というのがあるんですけど、人間である以上、考えるのをやめることは出来ませんよね。パスカルの有名な言葉に「人間は考える葦である」というのがありますけど、植物人間状態だと思ってたら意識があった、ってのは誰しも想像する恐ろしい状態の一つですよね。後味悪いってか怖いです、もう。
坂元 随分前に本は読んだことがあって、一体どうやって映像化しているんだろう?と興味はあったんだけど、どうにも観る気になれず・・・・ラストは原作と違うのかな?
アキサン で、『[リミット]』はこの手のパニックにありがちな「◯◯すりゃいいのに」を全部やってくれて、こうすりゃ助かるぜ的な内容かと思ってたら最後にドーンと絶望感。観てるだけで息苦しくなっちゃいます。
坂元 閉所恐怖症の僕には絶対に観れないと思う。
アキサン 『アレックス』は少し毛色違うんだけど、『メメント』のような時系列構成になってるから結末が先にあって。そこからストーリーを遡っていく過程で「あーあ」と台無し感とか取り返しつかない感がグングン上昇。この後どうなるんだろう?とか思わせてくれない。悲劇の過程や要因が後出しで次々出てくるからシンドイ。不意な交通事故で亡くなった方のお通夜に行って、その幸せだった日々とか直前の元気だった様子とか楽しみにしていた予定とか未来とか、事故の相手がどうしようもないクズだったとか、そういうのを親族から涙ながらに語られてる気分です。
坂元 長々と不愉快極まりないレイプシーンしか覚えてないな・・・・
アキサン あと、『隣の家の少女』は同時期に同じ事件を取り扱った『アメリカン・クライム』も映画化されてますよね。原作は鬼畜系ホラー作家と呼ばれるジャック・ケッチャム。その原作はアメリカ文学史上、最も悪趣味で読者全員を落ち込ませる一冊だそうです。僕も読みましたけど中々に胸糞です。その映像化は多くの監督やプロデューサーが試みたそうですけど、倫理的な問題からほとんど頓挫してしまったようで。その割に同時期に同じ事件を扱った映画が2本も公開されるという。昔『1492 コロンブス』と『コロンブス』も同時期に公開されてましたけど、何かあるんですかね、シナジー効果的な。
上木原 この手の映画ホント嫌いなんだけど、今回テーマだからしょうがなく「胸糞映画」をググってキチガイがすすめる『ファニーゲーム』っての観てみた。・・・・最悪だったよ。マジ胸糞悪くなり頭痛がしたもん。1週間レンタルだったけどメディアを近くに置きたくなくその日のうちに返しに行ったくらい。
アキサン 『ファニーゲーム』は「これは現実ではなくお芝居なんだ、フィクションなんだ」と感じることで心が救われる、というか一歩引いて見られるお蔭でそれほど後味悪くならなかったです。正確には僕が観たのは『ファニーゲームUSA』の方なんですけど。この映画も救いようがないストーリーで不条理で理不尽な暴力に晒される一家。観てる側にひたすらストレスをかけ続けるかと思いきや、いきなり第四の壁を破られて現実に戻される。通常なら興醒めするところなのに、この映画ではそれが救いになっているんです。『ファニーゲーム』とはポールとピーターのやっている行為のことではなく、この映画自体がファニーゲーム(ふざけた遊び)だったのかと納得しました。
上木原 あと『アイデンティティー』、コレで終わるとホントモヤモヤする・・・・。『サベージ・キラー』はイマイチだったな
坂元 『アイデンティティー』は面白かったよね!確かに後味は悪いけど。「後味悪い映画」と言えば『ミスト』以外に必ず名前上がるのが『セブン』『ダンサー・イン・ザ・ダーク』じゃないかな?
アキサン 『セブン』に関しては僕はそれほど琴線に響かなかったんですよ。正確に言えば面白いし、好きな映画なんです。しかもそれほど後味悪くない。むしろ鮮やかに七つの大罪を成立(?)させたジョン・ドゥの犯罪手法に感心したもんです。あと『ダンサー・イン・ザ・ダーク』も、最後から2番目の歌を歌うセルマの姿から悲壮感も何も感じません。希望に満ち溢れているんです。愛する我が子の眼が見えるようになることを喜ぶ。空想の世界ではなく、暗闇の中でも現実の世界で歌い上げる。セルマは決して不幸では無かった・・・・って思うしかないじゃないですか、もう。
坂元 同感です。途中は悲劇しか起こらないけど、ある意味あれはハッピーエンドとも言えるんじゃないかと思う。
アキサン ところがこの映画には別のラストも用意されてて、絞首台で息子の手術が失敗したことを聞かされて絶望の淵で半狂乱してる時にガッターン!って。流石に主演のビョークもそれは無理!って逃げ出したから没になったそうですけど。もしそのラストなら後味の悪さは抜群ですけど、決して名作には成り得なかったんじゃないかな?とも思いますね。
坂元 いくらなんでもそれは酷い!
アキサン 『ダンサー〜』の監督ラース・フォン・トリアーといえばもう一つ『ドッグヴィル』も後味悪い映画で良く名前が挙がる作品ですよね。『ドッグヴィル』はそのストーリーよりも、セットが独特なんです。床に引かれた白い枠線と最低限のセットのみで、まるで舞台のように繰り広げられる物語。そしてモノローグを使わないでナレーションで全部説明しちゃうという。ストーリーも後味と言うか胸糞が悪い。憎たらしいクソガキとかバカのくせに利口なフリしてるニヤ男とか頭の固いヒス女とか、出てくる奴にロクな奴がいない。でもそう思わせるように監督は仕掛けていて、それに乗っちゃう自分もまた居心地悪い。ただ、舞台的な演出なので『ファニーゲーム』同様に「これは現実ではない」というリミッターが働いてるから感情移入も少なく、ラストでのグレースの選んだ行動も許容範囲内でしたね。『ダンサー〜』で監督がやろうとしていた“悲惨なラスト”の方で巧くいったパターンの映画だと感じました。
坂元 そうそう、「いかにも作り物」って演出はハマらないから救いがあるよね。モンスター映画が純粋に楽しめるのと同じで。
アキサン あと、途中の描写がエグくてしんどい映画だったら、個人的には『震える舌』をオススメしたいですね。
坂元 「途中の描写がエグくてしんどい映画を教えて」って、誰も言ってないけど
アキサン 小さい女の子が破傷風にかかって苦しむって映画なんですけど、予告編がもうおどろおどろしいホラーのような作り。本編に無いシーンまで追加で撮ってて悪魔憑きを連想させるような編集なんですよね、超悪趣味(笑)。これは予告編とセットで観ていただきたい。内容を理解して観ててもまあしんどい。怖いだのトラウマだの鬱だのじゃないです。しんどいんです。観たい人はDVD貸すんでいつでも声かけてください。
坂元 オレ、子供の頃に観てちょっとトラウマになったの覚えてる。確か小学校の体育館とかでみんなで観たような記憶があるんだけど・・・・そんなワケないかな?でもラストは治るんじゃなかたっけ?邦画は登場人物に親近感が湧く分、しんどい度が高いよね。・・・・っていうか、なんでDVD持ってんの?
アキサン 邦画だと『凶悪』なんかもイヤ気になる映画でしたね。これも実際の事件を基に作られてる映画なんで、その悲惨さとか凄惨さは観る者の気持ちをズンズン落としてくれるんですけど、個人的にはリリー・フランキーとピエール瀧の芝居がもう面白くて。当然、良い意味でですよ。ピエール瀧は元々破天荒というか、電気グルーヴでの活動を見ているとその内に秘めてる狂気性が顔を出したんだと思えるんですけども、リリー・フランキーの笑顔の奥にある狂気みたいなものを垣間見てしまったような、でもそれはきっと彼の役作りの結果なんでしょうけども。きっと、現実の事件でも先生はこんな感じで笑いながら「僕にもやらせて」って言ってたんだろうな、と思えるリアリティ。誰しもどっかで身に覚えがあると思うんですが、ついつい悪ふざけが過ぎて何かマヒしちゃった状態。例えば楽しかった文化祭の片付けが終わってテンション高めで帰るときに仲のいい友人がチャリで帰ろうとしてたから「後ろ乗っけて」って、よりによって校庭のど真ん中をチャリの「荷台の上に立って」イエーッ!って走ってたら体育主任にメッチャ叱られたような経験、皆さんにもあるでしょう?
坂元 ないよ
アキサン あと、同じような実際の事件を基にした映画で『冷たい熱帯魚』がありますよね。園子温監督の。これも凄惨な描写と酷いストーリーで後味悪い映画に名を連ねることがあるんですけど、これはどうも違う。僕はいわゆる「悪趣味な映画」が好きなんですけど、「趣味の悪い映画」はそれほど好きじゃないんですね。園子温監督の映画観てると実感させられます。『冷たい熱帯魚』観た後の感覚って、三池崇史の『ビジターQ』に近しいものがありますね。趣味悪いなーっ、て感覚。
坂元 『ビジターQ』!あれはイヤな映画だったなぁ・・・。仲の良い美容師さんに紹介されて観たんだけどホントに嫌な映画だった。でも観終わった翌日にその美容師さんと「イヤな映画だったよね~、でもなんか面白かったよね」って盛り上がったんだよなぁ~(笑)
アキサン そして人に言うと変な顔されるんですけど、邦画だと僕個人的には『崖の上のポニョ』が最高に後味悪いんです。てか怖い。『となりのトトロ』はあっちから来た奇妙な隣人の話だし、『千と千尋の神隠し』では最終的にこっちに帰って来た話ですけど、「ポニョ」は全員あっち行っちゃったまま終わってるじゃないですか。それに気付かずにハッピーエンドな体で終わってると思わせてるってのがもう最悪ですよ。津波以降はアレ全部あっちの世界の話ですよね。あそこから世界が全部おかしい。悪夢のような映画ですよ。この気持ちの悪いズレた感覚って何だ、と思ってネットで調べてみたら、やっぱり同じように思ってる人が多くて。凄い細かく解説してるサイトなんかもあるんですけど、一言で言えば「あちら側に行くことを選んだ映画」なんです。『ゴースト』とか『丹波哲朗の大霊界』とか、あっち行っちゃった人の映画ってそりゃいっぱいあるんですけど、軽快で陽気な主題歌と可愛らしいキャラクターで巧妙に隠しているのがまた恐ろしい。この映画のモチーフはアンデルセンの「人魚姫」って話ですよね。人魚姫は王子を連れて行けず(殺せず)に泡になっちゃったんですけど、ポニョは宗介を連れてっちゃいましたから。恐ろしい。
坂元 「ポニョ」とか「トトロ」の都市伝説って凄い面白いよね(笑)でも宮﨑駿ってその辺を認めないでしょ?あくまでその意図は観客に委ねるというか・・・・。だから“都市伝”として盛り上がるのかもしれないけど。「千と千尋~」を筆頭に、怖面白いファンタジーとして大人も子供も魅了する「ジブリ映画」ってホント凄いよね。
アキサン あと、近作だと『パシフィック・リム』で知名度をグンと上げたギレルモ・デル・トロ監督が2006年に作った『パンズ・ラビリンス』も中々後味悪いんですよね。ダークファンタジーで妄想の世界と現実の世界が入り乱れる独特な世界感。後味の悪い「不思議の国のアリス」とでも言いましょうか。圧倒的違いは現実世界に戻ってきたアリスに対して、妄想の世界で生きることを(?)を選んだオフェリア。妄想だと思われていた世界は実は本当にあったんじゃないのか、と思いたくなるラストでしたね。でも観ている人は気付いてるんです。終盤、大尉が独り芝居に興じているオフェリアの姿を見ていることに。全てがオフェリアの妄想でしかなかったという現実に。ギレルモ・デル・トロ監督はジブリ映画のファンだと公言しているですが、そういう意味ではこの映画もポニョ同様、境界を超えてあっちの世界に行ってしまったオフェリアの物語なんですよね。「ポニョ」は観測者(いわゆるカメラ的なものの立ち位置)もあっちの世界から観てるので気付かないんですけど、「パンズ」は観測者が概ねこっち側にいるからよくわかるような気がします。って、「ポニョ」より「パンズ」の方が先に公開されてるんですね。驚き。
坂元 「後味が悪い」ってのを通り越してその映画自体がトラウマになるのがデヴィッド・リンチ。『エレファント・マン』とか『イレイザーヘッド』とか『ブルーベルベット』とか。それに何と言っても『ツイン・ピークス』!最近見ないけど大好きな監督だな~

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