店主は「旅と本」好きの脱サラ組

 正面に化粧品店。斜め前には精肉店。ついでに車の入口がどこかわかりにくい。そんな怪しさ満点だけど、何かある!と思わせるロケーション。店に入ると店主・小村勇一さんが笑顔で迎えてくれた。聞けば小村さん、福岡でフリーペーパーの広告営業・ライター・編集者→熊本で光学機器メーカーの営業マンという職歴を持つ脱サラ組。「旅と本が好き」。その思いひとつで、ここを開いたのだそう。「コーヒー飲んで行きませんか」の誘いに乗り、店内にある和室で話を聞くことにした。

少しずつ変わってきた「旅の目的」

 小村さんが大学時代に所属したサークルは“旅ファンクラブ”。「ほぼ飲み会」と彼は笑うが、今も昔も“旅好き”なことに違いはない。「だけど最近は旅の楽しみ方が変わってきた」と彼は言う。それは目的の違い。少し前までは観光地をめぐり、決められた観光ルートを辿っていた。行けば観光客だらけ、食事も観光客向けで地元の言葉は聞こえてこない。疑問を感じた。「これって遊びじゃない?って。帰ったら飲み会の記憶しかない(笑)。どちらも含まれるから難しいけど、旅と遊びは違う気がするんです。私が思う旅は、自分の人生を顧みることが目的。少し重いですね(笑)。その後の生活習慣が変わったり、ものの考え方を見直したり。そういう小さなことでもいんですが、結果的に人生にプラスになる何かを得る。ただ遊んで、疲れたねってだけじゃ切ない」。

「マニア」がマニアではない時代

 「歴女って流行ったじゃないですか?彼女たちがしていることは、そういう意味でまさに旅だと思うんですよ。大好きな歴史の偉人に思いを馳せながら、そのルーツを辿る。自分の人生と偉人の人生を照らし合わせて、旅を終える頃には何か人生観を変えるようなことを得ているかもしれない」。リアルな田舎暮らしを体験できるグリーンツーリズムは、メディアでも頻繁に取り上げられるほど人気。鉄道ファンは“鉄っちゃん”の愛称で親しまれ、鉄道好きのアイドル・通称“鉄ドル”まで登場した。どちらも歴女と通じる部分があるのかもしれない。「歴女とか鉄ちゃんとかを見ていると、何だかほっとしますよね。旅してるなぁって。その土地の有名料理店に並び、観光本に載ってる景色を眺め、高級ホテルに宿泊する。それも悪くないのですが、例えば私は地元の人が通い詰める居酒屋に行ってみる。度胸もいるんですけどね(笑)。その土地の暮らしと自分の暮らしを比べてみると、自分がいかに贅沢しているか、気づくこともあるんです」。

「旅と本」。人生と密接に関わり合うもの

 「実は僕の旅の楽しみがもうひとつあるんです。それは人を連れて行くこと。そこでその人が喜ぶ顔や楽しんでる様子を見るのが好きなんだって気づいたんです。くさいんですけど(笑)」。感動や知識を共有することの喜び、旅先を媒体に話ができる楽しさ、その土地の捉え方や楽しみ方の違い…。誰かを案内することで、旅はさらに深みをましていく。「そう考えた時に本だな!って確信したんです。本には情報がぎっしりと詰まっている。旅の本を集めてジャンルや時代ごとに編集して並べられたら…実際にそこに旅したような感覚を生み出せるんじゃないかって」。実際に連れていくことは無理でも、本を通した“案内役”ならできる。古い観光本を手に涙ぐむ老人、大人になったら必ず行くんだと意気込む少年、読んだだけで空想の旅を楽しめると喜ぶ女性。旅は“今”するものだけを言うのではない。本の世界なら時間さえも関係ないのだ。「旅という視点で見れば、意外と旅だなって本もたくさんある。例えば西村京太郎のサスペンス小説。あれも実は旅だったりする。本を読むときも目的を持てば、また違った見え方がします。これは旅も人生も同じことだと思うんです」。

小村さんが選ぶ10冊の旅本 何十年も前の観光本から海外を旅した冒険紀まで、奥の深い旅本の世界。その“案内役”を務める小村さんにおすすめの10冊を紹介してもらいました。

最低旅行

あなたも“猿岩石”ができる本
「“いかにお金をかけずに旅行を満喫するか”に尽力する作者の気持ちや行動が笑えるほどすごいです。宿への値段交渉、ヒッチハイクなど、あらゆる手段を使います。ある意味、理想の旅のかたち」
『最低旅行』なので、旅の最低具合は5つ星。ですが、それがかえって魅力的に見えるのはなぜでしょう。

日本列島花百景

日本全国の空気を感じられる本
「北海道から沖縄まで、日本の花のある風景を写真で紹介しています。色彩豊かな写真で、見ているとその土地の風や匂いまで感じられそう。リラックスしたい時や気分転換にぴったりの本です」
美しい写真に思わず家から飛び出したくなるほど。花と写真に興味がなくても景色は誰もが楽しめます。

アジア旅人

“旅の本”の楽しみ方の参考書
「詩人・金子光晴がアジアを旅して書いた紀行文をもとに、写真家・横山良一がそのルートをなぞり写真に収めた異色作。“旅本”を読んで実際に旅に出た、〈つばめ文庫〉のコンセプトを体現している本です」
旅人が足を踏み入れないような裏路地などが多く面白いのですが、それだけに実用性は…。

Insight Guides JAPAN

世界から見た日本を疑似体験できる本
「開聞岳や砂むし温泉も紹介されています。英語の中にある日本の風景は、海外から見た“JAPAN”をより強く感じさせてくれると思います。普段と違った視点で物事を見られるのも“旅本”の魅力です」
KAGOSHIMA!って読めただけで嬉しくなる。英語が読める方なら実用性はもう少しアップするはず。

観光百科 鹿児島の旅 太陽と黒潮

鹿児島を顧みる本
「35年前の観光情報誌で、観光地や食について現在のものより詳しく紹介してあります。鹿児島に住んでいる人なら、街の移り変わりをアルバムを見るように感じることができるはず。貴重な当時の地図付です」
まるで違う土地のようだけど鹿児島。「ここあそこじゃない?」って会話から、現場へGOしてください。

ページトップにもどる  特集一覧へ  ホームにもどる