「まだスタートラインに立ったばかり。サツマイモ農家として、まずは一人前になることを目指します」第2回 南九州物産 岡島 幸博さん

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広大なサツマイモ畑を家族で守る
焼酎蔵の契約農家

 南九州市頴娃町。あたり一面に茶畑やさつま芋畑が広がっている。その中の農道を1台のクルマが走ってくる。“クルマ”と言っても、車輪は3つ、ドアはない。日本でこれが走っている姿を見られる機会は、なかなかないだろう。クルマの正体は、トゥクトゥク。タイなどの東南アジアを走る、三輪タクシーだ。「こんにちは」と笑顔で降りてきたのは岡島幸博さん。「今はちょうど収穫期。これからトラックに乗り換えて、社長と畑に向かいます」。岡島さんが社長と呼ぶのは、妻・あすかさんの父・尾曲幸良さん。この地でサツマイモを作り始めて二十年になるベテランだ。宝山で知られる西酒造の契約農家、そして南薩マルジ生産組合の代表者という顔を持つ。「芋は社長夫婦と私たち夫婦の4人で生産しています。加えて、うちと契約している農家さんが80軒ほど。今から契約農家さんの畑に行き、収穫された芋を集荷してまわるんです」。収穫した芋は、その日のうちに焼酎蔵へ。8月から12月の収穫期は、多い日で20トン、最低でも10トンは搬送する。トラックに乗り換え、畑に到着すると、袋詰めされたサツマイモをトラックに積み込む。ひとつの袋で600キロにもなるというが、クレーンを操作する尾曲社長と、誘導する岡島さんの息はピッタリ。あっという間に4つの袋が積み込まれ、トラックは次の畑へと走り出した。

父であり師匠である社長への憧れ
農家の後継者という道への転身

 岡島さんは高校・大学で陸上の短距離選手として活躍し、国体選手に選ばれたこともある。そんな彼が大学卒業後に目指した道は、体育教師だった。実は今年の3月まで養護学校に常勤講師として勤務しており、農家の仕事に入ったのはつい最近。まだ半年も経たないのである。「約2年前。妻との交際をキッカケに、ここへ土日だけ手伝いにくるようになりました。ただ、継ぐということは想像すらしていませんでした」。平日は学校に勤務し、週末は実家の手伝い。そんな生活が2年間続く。休む間もない日々。しかし、通えば通うほど、農業という仕事に惹かれていった。「仕事以上に、社長の仕事に対する想いや姿勢に憧れたんです。自分もこういう大人になりたいと」。父であり、仕事の師匠でもある尾曲社長。多くは語らず、仕事は見て覚えさせる職人気質というが、岡島さんはその背中にどこまでもついていく覚悟だ。「社長はオンとオフのメリハリがハッキリとしていて、趣味も多い。休みの日は自家用小型飛行機で空のドライブを楽しんだり。トゥクトゥクだってそう。あれを持ってる農家はなかなかいないですよね(笑)。これは男の夢かもしれません」。“週末通い”の日々が1年ほど続いた頃。後継者になりたい、その想いにもう迷いはなかった。西酒造をはじめ、焼酎造りに関わる多くの人とも出会い、そこにたくさんの熱意があることを知った。「教員は子どもの教育に情熱を注ぎ、その成長を見届ける。芋農家は愛情を注いだサツマイモが、おいしい焼酎になるまでを見届ける。畑こそ違いますが、根本は一緒だと思ったんです」。

初めて感じる収穫の喜び
農家の責任とやりがい

 4月からこれまでの期間を「正直に言うと、慣れる暇もなかった」と岡島さんは振り返る。今は手伝いではなく仕事。ひとつひとつの作業に対する意識も、これまでと明らかに違う。「初めてだからっていうのは通用しない。ひとつでも手を抜けば、いい芋は作れない。だから僕は今、社長に付いて行くのが精一杯。学ぶことは百とあります」。あすかさんも「両親と一緒に仕事をしてみて、改めてその苦労や大変さを感じます。彼は父から、私は母から学ぶことが多い。愚痴が言えるレベルにも達していないので、どんなに忙しくても2人で多くのことを吸収していきたいです」と話す。この生活に慣れるにはまだ時間がかかりそうだが、ふたりの表情に疲れの色は見えない。サツマイモを選別する表情も、実ににこやかだ。「今年は苗植えから参加し、初めて迎えた収穫期。こうやって形になって出てくると本当に嬉しい。かわいくて仕方ないんです(笑)。おいしい焼酎になれよって話しかけてますから」。農家としてはスタートラインに立ったばかりのふたりだが目指すゴールは見えている。休憩を終えた後、あすかさんは母・美津子さんを、岡島さんは父・幸良さんを追い、真剣な表情で仕事に取りかかっていた。

(2009.8.28)

プロフィール

南九州物産 岡島 幸博さん

株式会社 南九州物産 岡島 幸博さん

鹿児島市出身。高校卒業後は福岡の大学で体育の教員免許を取得する。学生時代は陸上の短距離選手。帰郷後は教員を目指し、鹿児島市内の養護学校で常勤講師を務めていた。現在は、南九州市頴娃町でサツマイモの生産を行う株式会社 南九州物産に所属。

インフォメーション

株式会社 南九州物産

南九州物産では西酒造の契約農家として、黄金千貫のほか、綾紫、紅東、白豊などの品種も栽培している。農薬は使わず、有機肥料と水だけで生産。8月から12月までの収穫期は、その日に収穫した新鮮な芋だけを焼酎蔵へと送り届けている。

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