「カホンを核により多くの民族楽器を作りたい。期待に応えられる楽器作家を目指します」第6回 HM CAJON 濱崎 典雄さん 濱崎 有章さん

かごしま転身録 HM CAJON

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ペルー発祥の民族楽器
カホンのポテンシャル

 見た目はシンプルな木箱。楽器と言われても「?」が浮かぶだろう。だが、この“箱”が持つポテンシャルは実に高い。低音から高音まで叩く場所や強弱によって様々な音を響かせる。ドラムセットの代用品として用いられることも多いというが、一度聴けばそれも充分納得できるだろう。近年多くのミュージシャンから注目を集めるペルー発祥の打楽器・カホンだ。「19世紀の奴隷売買が行われていた時代。全ての楽器を取り上げられた黒人奴隷達が、貨物コンテナや引き出しの底を叩いて楽しんだのが始まりと言われています」とは、カホンを製作している濱崎有章さんと父・典雄さん。彼らが作るカホンは地元ミュージシャンを中心に愛用者が多く、最近ではパーカッションの専門誌にも取り上げられた。製作を始めてまだ2年程だが、その名は着実に広がりをみせている。「カホンを通して、多くの出会いに恵まれました。それはもう驚くほどのスピード。ただ、カホンの製作はまだ始まったばかり。もっと色々なことに挑戦していきたいです」。ギャラリーに並ぶ大小様々なカホン。工房では2人の息の合った作業が行われている。まだ2年とは思えない手慣れた動きに驚くが、それもそのはず。実はふたりの本業は建具職人。住宅用のドアや障子などを作るのが本来の仕事である。

プログラマーから建具職人への転身
理想の父親像も再認識

 「子どもの頃から父の背中を見て育ち、小さい頃は僕も建具職人になると思っていました」と有章さん。ところがあるとき、その思いは一変する。建具職人として働く父親は忙しく、休みを取るのも間々ならない。仕事を終える頃には埃まみれ。子どもの頃、父親に遊んでもらった記憶もほとんどない。「違うって思いました。物心ついたときには、すでに違う道を目指していました。僕は子どもと一緒に遊んであげられる父親になりたいと思ったんです」。そしておよそ7年間、有章さんはプログラマーとしてソフト開発の会社に勤める。結婚し子どもにも恵まれたが、そんなとき鏡に映った自分の顔に違和感を覚えたという。「週休2日制の条件も満たしたいい会社でしたが、僕は仕事の愚痴ばっかり言っている。情けなくてカッコ悪い。こんな父親を子どもが誇りに思ってくれるはずがないですよね」。父親は遊ぶ時間すらないものの、何でもできるスーパーマンだった。力持ちで何でも作れる。子どもの頃の勉強机も父親の手作りで、それが有章さんにとって何よりの誇りだった。幼い頃に見てきた父・典雄さんの背中と、父親になった自分の姿。プログラマーから建具職人への転職に迷いはなく、典雄さんが務める建具屋に入社した。

カホンで知った音楽の素晴らしさ
目指すのは民族楽器の作家

 「やってみればいい、というのが正直な感想。職人の世界も悪くないぞという気持ちが強かったですね」。有章さんの転職を父・典雄さんも温かく迎えた。しばらくして2人は独立。〈濱崎木工〉を立ち上げる。カホンとの出会いはその約1年後である。「友人がジャンベを叩いていて、民族楽器に興味を持ったんです。調べる中でカホンの存在を知り、作ってみたらおもしろくて」。試作品として完成した第一号となるカホン。はじめは一度きりのつもりだったが、有章さんは一気にのめり込んでいく。「友人が練習で使ってくれるようになり、ライブでも叩いてくれた。初めてステージにセットされたカホンを見た時、ものすごく嬉しくて。演奏中はなぜか涙が止まらなかった」。もっといい音を、もっと楽に叩けるカホンを。試作品を作る度にライブで使ってくれる友人。改良に必要なデータはその度に収集できた。多くのミュージシャンや音楽プロデューサーとも出会い、音楽の世界に身を置きたいという気持ちが強くなった。そして2007年、カホンメーカー〈HM CAJON(エイチエム カホン)〉が誕生する。「僕は音楽ができない。だけど、それがひとつの武器。わからないから知りたいし、出来ないから出来るようになりたい。もちろん、自分では評価できませんから、人に評価していだたく。音楽や楽器に対する固定概念がないので、素直に聞き入れることができると思うんです」。もちろん建具職人としての仕事は継続していくが、目標は「カホンを軸に様々な民族楽器が製作できる楽器作家」。その表情は夢と充実感に溢れている。子どもの頃に見た父・典雄さんの大きくて頼もしい背中を、有章さん自身も手に入れられそうだ。

(2009.11.10)

プロフィール

HM CAJON 濱崎 有章さん・典雄さん

HM CAJON 濱崎 有章さん・典雄さん

2006年、親子で主に建具製作を行う〈濱崎木工〉を立ち上げ。2007年にカホンの製作を行う〈HM CAJON〉を立ち上げる。現在ではカホンだけでなく、木製のパーカッションや金工メロディックパーカッションなど、様々な楽器製作に取り組んでいる。

インフォメーション

HM CAJON

下田町にある工房にはギャラリーも併設。ギャラリーではこれまでに製作した楽器の展示・販売を行っており、予約制で見学を受け付けている。音響(PAセット)も装備しており、バンドの練習や楽器練習をはじめ、各種カルチャースクール、パーティー用の会場等としても貸し出している。

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